第2章 照柿(てりがき)
いきなり自分に矛先を向けられ戸惑う私に、道三様が笑みを浮かべながらそっと耳打ちした。
「幸村様はろき様にヤキモチを妬いておいでです」
ヤキモチ?
ーー俺はお前に惚れ抜いてる。
昨夜の幸村の言葉を思い出し、一気に頬に熱が集まる。
信玄様のどんな甘い囁きにも負けない最強の口説き文句に、今更ながら照れてしまった私は恥ずかしさのあまり両手で頬を覆った。
真っ赤な顔で身を捩る姿に、道三様は喉を鳴らして笑い、信玄様と佐助君が不思議そうな目で私を見つめる中、幸村が不機嫌そうに言った。
「お前、何ニヤニヤしてんだよ」
「べ、別にニヤニヤしてないよ」
「信玄様に口説かれたからって、いつまでもんな顔してんじゃねえよ」
「へ?」
大きな勘違いをしている幸村に目が点になる。
言葉を失った私を横目に、信玄様は幸村に視線を移すとしたり顔で言った。
「嫉妬なんて……余裕のない男は損するものさ」
「嫉妬なんてしてねえよ! うるせ……」
不貞腐れてそっぽを向いた幸村に代わり、佐助君が道三様に話しかけた。
「道三様、ろきさんを診て頂きたいんです。
昨夜夕餉をとっている途中急に吐き気を催しました。
半刻程で顔色も戻ったので朝まで様子を見る事になった次第です」
「なるほど。
わたくしにとってもろき様は大事なお方故。
さっそく診させて頂きます。幸村様、よろしいですかな?」
「ああ、頼む。てか佐助、それ俺が言う事だろ!」
「いつまでも拗ねてるから僕が言ったまでだ」
「な? 幸、余裕ないと損するだろう?」
「うるせ~よ!」
「ふふ。ではろき様、こちらへ」
幸村達のやりとりにクスリ笑った道三様は、流れるような所作で私に近づき手を取ると、隣の部屋へと案内してくれた。