第1章 炎色(ほのおいろ)
未来を変えるため戻ることを決心し、現代に帰って三か月後、ワームホールから手を差し伸べてきたのは幸村だった。
「来い、ろき
今度こそ断わらせねえからな
お前は、俺と生きろ」
春日山に来た頃は、城下に咲き乱れる満開の桜と遠くに連なる山々はみずみずしい程新緑に彩られていた。
あれから半年。
移りゆく季節を愛でながら、幸村、佐助君、謙信様、信玄様と共に笑いの絶えない充実した日々を送っている。
そんなある日の昼下がり。
縁側でのんびり書物を読んでいた私は、お茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばすと茶碗のふちで赤トンボが一匹羽を休ませていた。
「もう秋かぁ……」
あっという間に過ぎゆく時間だけど、日々の出来事は心の中にギュッと凝縮されていて、ふと空を見上げる度に愛しい追憶が沸き上がる。
どこを見るともなく、ぼんやり物思いにふけっていると、襖越しに聞きなれた声がした。
「ろきさん、いいかな?」
「佐助君?」
読んでいた書物を閉じ部屋の入口へと向かう。
いつもならこの時間、謙信様と一緒に鍛錬場にいる彼が部屋に来るのは珍しい。
向こうの気配に耳を傾けながら、静かに襖を開けた。
「どうしたの? 佐助君?
鍛練中じゃないの?」
「はい、これ。
ろきさん宛に信長様から書状が届いたんだ。
すぐに渡したくて……」
「え!手紙!?」
信長様からだと知り、とたんに胸が弾む。
第六天魔王と名を馳せた信長様の命令が絶対であった為に、五百年後から来たという怪しい私を受け入れて、家族同様慈しみ側で見守ってくれた屈強な武将たち。
天守で打たれる碁のパチンと鳴る心地いい音を聞きながら、開け放たれた障子の先に視線をやると燃え立つように染まった茜色の空がどこまでも長く続く。
瞼を閉じると次から次へ安土での懐かしい日々が浮かんできた。
受け取った手紙を早く読みたいという逸る気持ちが、トクトクと高鳴る鼓動に比例して、開封しようとする私の手を焦らせる。
丁寧に折られた巻き紙を開けば、先程懐かしさに思いを馳せた武将達の見慣れた文字。