第2章 照柿(てりがき)
眩しさに瞼をゆっくり開けると、障子から差し込む穏やかな朝の光に包まれた幸村が、隣でスヤスヤと寝息をたてている。
子供のように褥から足をはみ出して眠る無邪気な姿の幸村を見ると、思わず笑みが漏れる。
「……寝相悪いんだから」
布団をそっと掴み、静かに掛け直す。
「もう……少し……」
寝言を言いながらもぞもぞ動いたかと思えば、私の腰と布団の隙間に腕を差し込み力任せに抱き寄せられた。
ふわり漂う愛する人の匂いが鼻を掠め、安心感で胸が満たされる。
目の前にあるはだけた厚い胸に頬をよせると、束の間に訪れたこの時間を噛み締めるようにゆっくりと目を閉じた。
「ろきさん、起きてる?」
どれぐらい時間が経ったんだろう。襖越しに突然聞こえてきたのは、遠慮がちな佐助君の声だった。
「あ!待って待って!」
とっさに返事をするが、昨夜「明日の朝また来る」と言い残して部屋を去った彼の言葉を思い出し、焦った私は、幸村を起こさないよう腰に回された腕をそっと体から離すと褥から抜け出す。
掛けてあった小袖をはおり、乱れた髪を急いで整え、ひとつ深呼吸すると、襖の引手を引いた。
「お、おまたせ」
「朝早く申し訳ない。具合はどう?」
「心配かけてごめんね。もう大丈夫。平気だよ」
「よかった……でも、念のために道三様には診て貰おう」
「うん」
「もしかして、幸村まだ寝てる?」
「うん。やっぱり疲れてるみたい。もう少し寝かせておこうと思って…」
「そうか。ところでろきさん、信玄様のところには一刻後ぐらいに行こうと思ってるんだけど、いい?」