第1章 炎色(ほのおいろ)
失う恐怖に怯え、その気持ちが伝わらないもどかしさに怒ってたんだ。
私は幸村の不器用さを分かってる様で全然わかってなかった。
口下手で言葉が足りない……
こんな大事な事をどうして忘れてたんだろう。
幸村を想うあまり自分の気持ちを押し付けてしまい、肝心なものを見逃していた事を酷く後悔した。
「幸村の気持ちも知らないで……ごめんなさい」
胸に顔を埋めたまま心から詫びた私の耳元で優しく幸村が囁いた。
「顔上げろ」
体を反らしゆっくり見上げたそこには、愛しさを纏った優しい眼差しの幸村いて、気がつくといつの間にか私の唇は塞がれていた。
頬に熱が集まるのを感じながら、どちらからともなくゆっくり唇を離す。
私を見下ろす潤んだ瞳は何かを伝えるようだった。
引き寄せられる様にその目から視線をそらせないでいると、幸村は深く息を吸い大きなため息をついた。
「はぁ………」
「どしたの?」
思いつめたように項垂れる幸村が心配になり窺うように尋ねると、私の肩に顔を埋めたままピクリとも動かなくなった。
不安になりおずおずと名前を呼び背中をさする。
「幸村?」
「………………」
「幸村ってば」
「あ〜くそっ! 頭冷やしてるとこだ」
「なに?」
「いいから」
「え?」
「いいんだよ! ……寝るぞ」
私の手首を荒々しく掴んだ幸村は、褥まで連れて行くと布団をめくり私を寝かせた。
自身の体を滑り込ませるように横たえると、仰向けに寝かされた私を両手で息苦しい程ギュッと抱き寄せる。
「幸村?」
「何でもねえって」
「ちゃんと言ってくれないとわかんないよ……」
「ああ。俺はお前に惚れ抜いてる。それだけだ」
不器用で口下手でぶっきらぼうで……
だからこそ幸村の言葉ひとつひとつが心に沁みる。
頬に触れた厚い胸板から幸村の体温がじんわり伝わってくる。
私を全て包み込んでくれているような柔らかい温かさに思わず頬ずりした。
「あったかい」
「ろき、愛してる」
「うん……離さないで」
「おう。絶対離さねえから覚悟しとけ」
甘い囁きに瞼を閉じると、感じた事のない気だるい感覚が眠気を誘い、私はいつのまにか深い眠りへと落ちていった。