第6章 白(しろ)と至極色(しごくいろ)
謙信達が甘粕景持の居城である三条城へ出立してから早10日。
晩秋のひんやり冷たい空気に包まれた春日山は逃げ場のない寂しさに耐えるろきの心を映すようにひっそりとその影を落とす。
文机に置かれた書物を手にとり、見るともなくページをめくれば、1枚のいちょうの葉がハラハラ足元に落ちた。
「……あ、栞」
その場にしゃがみ込みそっと拾い上げると、思い出の小さな葉がスクリーンになり色鮮やかに甦る。
あの日見た、秋の衣をまとう風光明媚な春日山の景色と会話がスローモーションで頭の中に再生された。
「俺の後ろを歩くな」
「お前はそこでじっとしてろ」
「何度言えばわかるんだ」
小言を言いながら、私の手だけは絶対に離さず、いつも隣にいてくれた心配性の幸村。
思い出せば思い出す程、寂しさや不安を抱える弱い自分が暴かれ、幸村が今ここにいない現実に、私は完璧に打ちのめされる。