第3章 海原の煌めきをアナタと···
ひとり店のキッチンで明日の為の仕込みを続けていると、不意に側のドアが開いた。
『どうしたの?こんな時間に···あ、喉乾いたとか?』
部屋にいると思っていたツキシマさんが姿を見せたことで、きっとそうだろうと声を掛ければ···いつもの感じでフン···と鼻で笑う。
月「あのさ?いくら喉乾いたからって言っても、誰の許可もなく店のものに手をつけたりしないから」
『そうじゃなくて、飲み物欲しいから私を探してたのかな?なんて』
ツキシマさんは···未だに片腕に不自由な所がある。
だから多少の事は自分で出来ても、時には誰かの手が必要な時だってあるから。
月「飲み物を用意するくらい、僕だって出来るさ。まぁ···ポチを探してたのは、当たりだけど」
『やっぱり私を探してたんじゃない···』
笑いながら手を洗い、カウンター越しにツキシマさんの前へと移動する。
『何か飲む?って言っても、私達は未成年だから飲めるものといえば限られてしまうけど』
月「じゃあ、折角だから···いつもので」
『はい、いつもの凄ーく甘めのレモネードですね、お客様?』
月「···うるさいよ」
フフフッと笑いながら飲み物を用意して、カウンターを挟んだまま差し出した。
『それで、ツキシマさんは私にどんな用事があったの?』
さっき私を探していたことは当たりだと言った事を思い出し、いつもの感じで···なになに?早く言って?と急かしてみる。
月「···あのさ。そのツキシマさんっていうやつ、やめない?僕には、正式にはちゃんとした名前があるから」
『正式な···って?』
月「ケイ・ツキシマ···これが僕の、本当の名前。ついでに言えば、この名前はまだ···ポチにしか教えていない」
ケイ・ツキシマ···さん?
考えてみれば、私にもツムグ・キドという正式な名前があるんだから、ツキシマさんにだってあるのは当たり前なのに。
ずっとツキシマさんとしか呼んでいなかったから、ちょっと急に教えられて···びっくり···
月「なにを呆けてるのさ、口が半開きのままだけど?」
言われて咄嗟に口を隠すも、バッチリ見られたあとでは既に遅く、ツキシマさんはカラリと笑った。
月「どうして名前を?って顔してる」
『まぁ、ね』
月「それはさ·········だろ?」
え···いま、なんて?!