第3章 海原の煌めきをアナタと···
~ ツキシマside ~
「ほら、大きくアーンして」
「あぶァ~···」
目の前の小さな小さな女の子に、スープをひと匙掬っては口に運んでやる。
あの時のケガのせいで片腕が少し不自由な僕の仕事は、専ら···この小さな女の子の食事係。
僕に生きる覚悟をしろと言った男と、何も聞かずこの場に受け入れてくれた女の面影のある···小さな女の子。
キラキラとした大きな丸い目は僕を映し、今日もキャッキャッとしながらあちこちに食事を飛ばす。
「零すなよ。ほら、可愛い顔が台無し」
ナプキンで口元を拭おうとすれば、擽ったいのかアブアブと言いながら抵抗する。
「あぁもう···余計に広がったじゃないか。ほら、じっとして」
「だァ~」
···ダメだ、全然通じてない。
はぁ···と大きく息をつけば、いつからそこにいたのか、そばでクスクスと笑う声がする。
梓「手こずってるわねぇ、ツッキー?」
「ちょっと、その呼び方···」
梓「いいじゃない、ツッキーで。ね、オータ?」
桜「そうだね。親しみやすいし、可愛いんじゃない?」
この夫婦は···
桜「それよりツッキー、腕のリハビリの時間だ。いつもより遅くなってしまって悪かったね」
「別に。店が忙しかったのは、僕も知ってる」
なんせ、いつもうるさい位にそばにいるツムグが···今日はあんまり顔を見せなかったから。
そういう時は大抵、店が忙しくて出ずっぱりになってるって事だし。
桜「アズサ、俺はしばらくここにいるからツムグと夕方の仕込みの方を頼むよ。リンネはタダシ達が見てくれるから」
梓「分かった。タダシもニシノヤも、リンネと遊ぶの上手だから心配いらないわ。ただ、どうしてかコガネだけは···泣くのよねぇ···」
そりゃ、あんだけデカいヤツが全力で高い高いをすれば泣くのも当たり前デショ。
ビビらせ過ぎ。
相手は赤ん坊同然だってことを忘れてる。
梓「ツッキー、ちゃんとオータの言うこと聞いて頑張るのよ?」
「子供扱いするの、やめてくれない」
梓「あら、似たようなものでしょ?寂しがりで甘えん坊の、ツッキー?」
「ちょっと!」
まったく···どうしてこの人は僕をいつも構うんだよ。
別にひとりでいるのは慣れてる。
前にいた船で与えられた任務だって、ひとりで動く仕事だったから。