第1章 水鏡の揺らぎ
~アサヒside~
「お待たせしてしまったね、オータ」
膝を付き頭を下げたままのオータに声を掛け、顔を上げさせる。
桜「突然の訪問にも関わらずお目にかかれて光栄でございます、陛下」
本当に自分の目の前にいる人物が、過去、海賊であったのだろうかと思わせるようななり振る舞いを見せるオータに苦笑を見せた。
「堅苦しいのはやめよう。普段の、いつも通りのオータでいいから」
大「しかし陛下」
コホンと小さく咳払いをするダイチに、自分がいいと言っているんだと目だけで黙らせる。
「それで、急ぎの用事というのは?」
桜「はい。先程家の者を使いに出した所、街中でセイジョーの船員に会ったと報告を受けましたので、陛下に外出をお控え頂きたく」
普段通りでいいと言ったのに、律儀に会話をするオータに、また苦笑を見せた。
「オータ、堅苦しいのはやめなさい。私は友達と話がしたい」
あからさまに息をつくダイチに、広間ではなく自室で話の続きをしたいと言って支度をするように命じ、側を離れたダイチの代わりにニロを呼び、オータと共に移動した。
「オータ、さっき言ってたセイジョーというのは?」
桜「はい、あまりいい話を聞いた事がない···海賊です。アサヒさんは以前、ちょっと攫われてしまっているので」
イタズラに笑いを含め話すオータに、その時の感謝は忘れてはいないとこちらも笑う。
ニ「ンの割りには、陛下は外出がお好きなようで?」
「アハハ···ニロには痛いところを突かれるなぁ」
桜「だけど、その外出好きな所にニロは恩恵を受けてるんじゃないのかな?」
ニ「別にオレは、陛下がいなくてもツムグに会いに行けますけどね」
ニロ···お前のそのポジティブ思考が羨ましいよ。
「オータの話は分かった。なるべく無意味な外出は控えるとしよう。だけど···オムライスが食べたくなったらどうしたらいい?」
思わず零れる本音に、オータとニロが笑い出した。
桜「その時は、どうぞニロとダイチ様とご一緒に」
「では、そうさせて貰うとしよう」
桜「お待ちしてます、アサヒさん」
しきりに3人で笑い、ダイチに何事かとドアを叩かれるまでに騒ぎ、気兼ねしない友達を持てるのはいい事だなと胸が暖かくなった。