第1章 水鏡の揺らぎ
~オイカワside~
先日会った男。
確かにどこかで見覚えがある筈だ。
でも、どこで?
いや、オレの記憶にあるのはあんな感じの風貌ではなくて···もっと、穏やかそうに見えて···冷酷な眼差しをしていた、ような?
「う~ん···やっぱりオレの気のせいかなぁ?」
人の記憶は確かなものではない時もあるし。
「それにしても、どこか引っ掛かるんだよなぁ」
岩「うっせーなブツブツと。何が引っ掛かるんだよ、お前は」
「ん~?こないだ会った男の事だよ」
岩「男?···お前、遂に女じゃ満足出来なくなったのか?」
まるでおかしなモノでも見るような目付きで、イワちゃんがオレを見る。
「違うって!オレはいつでも女の子がイチバンなんだからね!」
岩「威張って言うなボケが!」
「痛ッ!ちょっ、イワちゃん?!オレ一応この船の船長!」
知るかボケ!と言いながら、オレの部屋で寛ぐイワちゃんに痛さで零れそうな涙を拭いながら聞いてみる。
「こないだ会った女の子、覚えてる?」
岩「また女の話かよ」
「違うって!その後から現れた男の話!」
岩「お前やっぱり···」
「違ーう!いいからオレの話聞いて!!」
足早に部屋から出て行こうとするイワちゃんを引き止め、無理やり座らせる。
「あの男、やっぱりどこかで見た顔なんだよ。でも、どうしても思い出せないんだ」
岩「お前の腐りきった脳みそじゃ、そこまでだろ。だが、俺も何か引っ掛かるとは思ってたんだ」
「調べる必要があるね」
岩「だな。単なる勘違いや他人の空似かも知れねぇが、俺はお前の野生の勘を信じてる」
調査···それに適した人物は。
「イワちゃん、クニミとツッキーを呼んで」
岩「···あの二人をか?」
「適任だろ?」
薄く笑いを浮かべて言えば、渋々といった感じでイワちゃんが部屋から出て行く。
クニミはその存在を、スンナリと周りに溶け込ませて情報を拾ってくる。
そしてツキシマは···クニミとは逆にいろんな意味で目立つから、聞きこみなんかさせたらすぐにそんな男が人を探していると広まるだろう。
そこが、狙い目。
こっちから餌を撒いておけば、腹暗い事があるやつなら引っ掛かってくれる筈だ。
ちょっと難点なのは、ツッキーが面倒臭がりってトコだけどね。
さて、どうやって説得しようか。