第1章 水鏡の揺らぎ
~オータside~
慧「オータ!」
店を開ける為に支度をしていると、買い物へ出した二人が帰って来る。
『ただいま戻りました、オータ兄様』
「おかえりツムグ。ありがとう」
荷物を受け取りながら、その小さな頭をひとつ撫でてやる。
慧「ツムグ、オレとオータは新メニューの打ち合わせしたいから、悪いがここ頼むな」
「え?」
新メニュー···なんて、何も予定はないけど。
『分かった。オータ兄様、美味しい新メニュー期待してます!』
嫌な顔ひとつせずに引き受ける可愛い妹に曖昧な笑みを返し、代わりにケイタに疑問の顔を向けた。
慧「じゃ、頼む。オータ、ちょっと」
普段の姿からはあまり見る事がない真剣な表情に何かを感じながら、俺はケイタの後をついて部屋に入った。
「で、新メニューなんて言い出して···なに?」
鍵を閉めたドアに寄りかかりながらケイタに問えば、真剣な顔でオレをジッと見るケイタが、重い口を開いた。
慧「この街に今、セイジョーの船が来てる」
「セイジョーって···あの?」
慧「あぁ、そのセイジョーだ」
なるほど、ケイタが真顔で帰って来たのはそういう事か。
「港で船を見掛けただけなら、別に、」
慧「ツムグが、そいつらと一緒にいた」
「一緒に?それはどういう経緯で?」
慧「ツムグの話だと、スガに言い寄られてる時に助けて貰ったらしいから偶然なのかも知れねぇが、その相手が悪い」
「そうだね。ツムグがそれ以上セイジョーの船員と接触しなければいいけど···」
あの船の船長は、とにかくマズイ。
噂が噂を呼んでいるのだと思うけど、とにかくいい話は聞いたことがないからね。
特に、女性に関しては。
慧「それからツムグを迎えに行ったオレを見て、どこかで会ったことはないか?と聞いてきた。これはあくまで仮定にすぎないが、オレ達の顔を知っている可能性も高い」
「俺達の、って。同じ顔してるのに?」
慧「だからこそだろ。どこかでお前を見掛けた事があって、オレを見て疑問に思ったとかな」
「逆もまた然り、だけどね」
それにしても、ケイタを見てそう言って来たのなら少し様子を見ないといけないな。
アサヒ様に暫くは出歩くのやめるようにお伝えしなければ。