第2章 風のざわめき
~ イワイズミside ~
···体が重てぇ。
やっとの思いで目を開ければ、甲板に続く通路のそこかしこに赤く広がるシミが落ちていた。
あの男···生きてやがったか。
なかなかしぶといヤツだ。
「···俺もか」
喉の奥でひとつ笑い、絶え絶えな息を噛み殺して起き上がる。
力の入らない足に何度も喝を入れながら立ち上がり、腹に増やされた飾りに目を落とす。
こんなもん、勝手に増やしやがって。
慧 ー 絶対抜くなよ?抜いたら···大量出血するからな? ー
余計な···お世話だ!
引き抜いたナイフを放り投げると、カランとしょぼい音がした。
と、同時に。
開放された傷口が熱く疼き出す。
「っ···」
焼けるような痛みが、冷静さを失わせようとしている。
クソっ!!
動きやがれ俺の足!!
壁伝いに甲板までの道のりを辿り、外の日の光の眩しさが馴染んで目を開ければ···そこに見えたものは···
「なん···だよ、これ···」
そこかしこに蹲る仲間達と、その先には···いつも軽口を叩いて笑っていた見慣れたヤツの体が横たわっていた。
「何なんだよ!何寝てんだよ···オイカワ!!」
喉の置くから絞り出すように叫べば、見覚えのある背中が俺を振り返り···目を見開いた。
慧「お前···抜いたら死ぬぞって言ったコト、忘れたのか?」
見ればそいつこそ、どこからどこまでが元の服の色だか分からなくなっていた。
「そっちこそ生きてやがったか···腹に穴開けてやったのによ」
慧「そりゃどーも···お陰でちっとばかり河原を散策したきたぜ」
「そのまま渡りきっちまえば良かったのに」
どうでもいい言葉を投げ合いながら、その合間で状況を盗み見る。
···オイカワを撃ったのは、あのオンナか?
傷の手当を受けながらも、その手に握る物を見て判断する。
だったら、俺のやる事は···ひとつ。
せめて、オイカワの仇を。
残る力をかき集めるように、俺はオンナとの間合いを一気に詰めた。