第2章 風のざわめき
月「これでお前は···自由···」
力なく呟く声が、胸に染みる。
もう二度と聞けないと思っていた声を、言葉を···零さないように···
ツキシマさんの体を、ギュッと抱きしめた。
桜「ツムグ!!」
駆け寄ってくるオータ兄様を見上げて、その姿に胸が痛くなる。
私の勝手な行動から始まった事で、いろんな人を巻き込み、傷付け、そして···ひとつの命が···消えた。
生涯、私はこの消えてしまった命の重さを背負って生きていかなければならないと、そう思った。
月「ポチ。お前は···自由に生きろ。オイカワさんを···仕留めたのは、僕···だから。罪を、背負うな···」
桜「そうだね、確かに命の針を止めたのはキミだ。だけど、その責任を負わせてキミをこのまま死なせるつもりは無い」
オータ兄様···?
月「···お人好しだな」
桜「もちろん、見返りは要求するよ?···それは、消えた命の分まで生きる事。キミが今からする覚悟は、死ぬ覚悟なんかじゃない···生きる覚悟だ」
『オータ兄様···?それって···』
桜「時間がない、話は帰ってからだ···とびきりのお説教もオプションにね」
『···はい』
オータ兄様が、生きる覚悟をしろとツキシマさんに言った。
それは、これまでに増えて行ったタダシ君や、ノヤっさんや···コガネにも、言い聞かせていた言葉で。
その意味は···私達の仲間、つまり。
“ 家族 ”
···が増えるという事でもあって。
これから先も、ツキシマさんの側にいられるという事を予告していた。
山「オータさん···実は、船が···」
桜「マズイな···だいぶ沖まで流されてる。俺達の船はニシノヤがこのセイジョーの船に上手く横付けし続けてくれてるけど、既に港が見えなくなってる···」
恐らくすぐ下に待機してるノヤっさんを見ながら、オータ兄様とタダシ君が優先すべき手順を話し出す。
慧「おい、オータ。何を焦ってんだ?優先することって言ったらよ、まずはそこにいるケガ人からニシノヤの所へ降ろせや」
『ケイタ兄様!!』
予期せぬ声に反応すれば、チカラさんとコガネに肩を借りて歩いて来るケイタ兄様がいた。
慧「ツムグ、お前はオータのスペシャル説教の後に···オレからも説教を追加してやっから楽しみにしとけ」