第2章 風のざわめき
どう、しよう···
オータ兄様の指示が出た色は。
ー 容赦ない援護 ー
それは、最悪その指示を出した者に被害が及んでも構わないからっていう意味も含まれてる、色。
そしてその指示を出したのは、オータ兄様なのに。
今は私が、援護されるべき立場になってしまった。
けど。
この土壇場で誰かに助けを···なんて、出来るはずもなく。
一歩ずつ確実に、オイカワさんは近寄ってくる。
自分で、カタをつけなきゃ。
そう思っているのに、伸ばした腕が鉛のように重く動かない。
もう、ダメかも···
少しだけ情けなく諦めかけた、その時。
背後から伸ばされた腕が、私の手に重なった。
月「なに、してんだよ···」
途切れ途切れの声に、体が震えた。
『どうして···だってさっき、タダシ君が···』
月「勝手に、葬らないでくれる?」
バサりとタダシ君の上着を落とし、ツキシマさんが顔を見せた。
月「泣くな···って、言っただろ···」
驚きや、いろんな感情が混ざって溢れ出す涙を指で払いながら、ツキシマさんが眉を寄せた。
『泣いてなんか、ない』
月「···理解不能」
そう零す顔は、以前よりずっと柔らかくて。
心に染みた。
及「チッ···生きてたのかよ。いや、死に損ない?」
月「さぁ···?」
及「でも。今すぐオレが、楽にしてあげるけどね」
オイカワさんの言葉の直後、銃声が鳴り響いた。
『え···?』
自分の手に感じる違和感に視線を移す。
今のは、私の···?
月「こんなもの、使うなよ···これを使うのは、汚れた···この手で、充分だ」
及「ッ···」
手首を押さえて呻くオイカワさんを見ながら、ツキシマさんはそう言って、トリガーに指を掛け直す。
及「お前達···揃って沈めてやる!」
傷を負っていない手で剣を掲げ、オイカワさんが一気に距離を詰めてくる。
月「ツムグ!」
私の名前を呼びながら頭を掻き抱き、胸に押し当てられる。
月「見なくて、いいから···」
言葉と同時に、銃声が響く。
ほんの一瞬の出来事に何が起きたのかさえ分からない。
月「終わった···」
足元に伝わる振動。
それは確認するまでもなく···対峙していた人が、人ではなくなった証だった。