第2章 風のざわめき
今日何度となく聞いた音が、自分の手によって空高く響く。
風に舞う火薬の匂いが、私の呼吸を塞いでいった。
及「なんの、マネだよ···」
弾が掠めた腕を押さえながら、オイカワさんが私を睨む。
『これ以上、こんな事を続けるのは···やめてください。じゃないと···』
言いながらシリンダーを回し、撃つ。
及「フン···ハズレてる。そんな腕でオレを撃ち抜けるとでも?」
『ハズレたんじゃありません···わざとハズしたんです』
及「···どうだか」
『右の耳飾り』
聞こえるように言って、撃つ。
『左腕のブレスレット』
躊躇もせずに、体に傷を負わせることなく···ひとつずつ撃ち抜いて行く。
『あと···残り三発ありますけど、どこがいいですか?』
私みたいな小柄な体格で剣を交えるのは不利極まりない。
力の差だって、大きな障害になる。
自分の身を守る為にってケイタ兄様から教わった事が、いま···こんな事で役立つとは思わなかった。
今までのような威嚇射撃ではなく···
確実に、弾を無駄にする事のない···狙い方で。
船での戦いは、数だけ撃てばそれで済むような場合じゃない方が多い。
だからこそ、確実性を求められる集中力を鍛えられてきた。
それが私の、戦い方だって。
···とは言っても、実践になんてほとんど駆り出されることはなかったから、確実性が···なんて威張って言える立場ではないけど。
及「止まっているものを狙うのは、誰にだってできるさ···例えば、オレ···とか?」
この期に及んでハッタリ···と言おうとして、言葉を飲み込んだ。
あの人の狙っているもの、それは。
私の後ろ···
素早くツキシマさんを抱き締めながらその場に座り込み、すぐにまた照準を当てる。
及「そんなに動揺してて、オレに当てられるの?」
冷たく笑うオイカワさんが、一歩ずつゆっくりと近付いて来る。
桜「ツムグ!!」
及「ちょっと、アンタはそこから動くなよ?もし動いたら···びっくりしたオレは、どこに撃つか···分からないからね?」
オイカワさんが一瞬目を逸らした隙に一弾放つも、それはどこも掠めることなく···波の向こうへ消えて行った。
及「ほ~らね、全然オレには当たらない」
···残り、二発。