第1章 水鏡の揺らぎ
初めて会うのに、妙に人懐っこい感じとか。
かと言って、本心は絶対に見せない貼り付けた笑顔。
私の中の防衛本能が警鐘を鳴らしている。
それに、イワちゃんって呼ばれてる人も···近い感じがする。
···気がする。
これ以上、あまり関わらない方がいいのかも知れないけど、スガさんの怪しげな誘いから助けて貰った事実もあるし。
どうしたらいいんだろう。
ー ツムグ! ー
迷っている私に、通りの向こうから聞きなれた声で呼びかける人影。
『ケイタ兄様!』
私が姿を確認して名前を呼ぶと、ケイタ兄様は足早に近寄って来た。
慧「お前、こんな所にいたのか?オータに言われてアチコチ行きそうなとこ回ってもいねぇし、探したぞ?」
岩「お前のアニキか?」
ケイタ兄様が、誰だ?と視線だけで私に訪ねてくる。
『さっき、スガさんからの猛攻から助けて頂いたんです』
慧「それは妹が世話になったな。ったくスガめ、今度会ったら折り畳んでやる」
『折り畳むとか···』
ケイタ兄様はホントにやらかしそうだからスガさんが心配だよ。
及「あの、どこかで会ったことないですか?」
慧「···さぁな?人違いだろ?さ、ツムグ。早く買い出し終わらせねぇとウルセェのがいるからな、行くぞ」
『さっきは助けて下さってありがとうございました!』
岩「あぁ、気にすんな。気をつけて帰れよ」
ペコリと頭を下げ、ケイタ兄様に手を引かれるままその場を後にした。
『ケイタ兄様!ちょっと歩くの早いってば···』
痛いくらいに手を引かれ、半ば小走りに近い速さで街中を進む。
それでもオータ兄様から頼まれた物は次から次へと買い、最後のひとつを買った辺りからケイタ兄様は無言のまま家へと急いだ。
何を話しかけても、眉間にシワを寄せながら···なんだかうわの空で。
それが、ケイタ兄様がこの先に待つ出来事を予感していたとは···この時の私には、何も分からなかった。