第2章 風のざわめき
涙も枯れた頃···そっとタダシ君の体を押し返す。
『ゴメンね、タダシ君···ありがとう』
最後にスンと鼻を啜りタダシ君を見上げれば、タダシ君は一点から目を離すことなく私をだき寄せる力を緩めた。
山「オレは···平気。だけど、オータさんが···」
タダシ君の言葉に思い切りオータ兄様を振り返る。
···!!
自分の目に映る物に愕然とする。
遠くに弾かれた···オータ兄様の、剣。
ポタリと落ちる赤い雫。
そして···
腕に巻かれた布の色。
『···あの、色は』
山「うん···そう、だね。知ってはいたけど、正直···目の当たりにすると···」
そこまで言って、タダシ君は口を閉ざす。
その気持ちが理解できないわけじゃない。
あの色の布の持つ今意味は···オータ兄様が形勢不利、と言う証拠。
そして。
状況によっては···諸刃の剣。
こんな時···ケイタ兄様だったら、どうするのだろうか。
息が詰まる思いで、ケイタ兄様の方にゆっくりと視線を移す。
『タダシ君?!···見て!』
離れたばかりのタダシ君の腕を掴み、自分が今見ている物を共有させる。
山「ケ···イタ、さん?!」
コガネに肩を借り、ゆらりと立つケイタ兄様の姿に二人で言葉を失くしたまま立ち尽くす。
さっきとは違う涙が浮かび、タダシ君の胸をまた借りた。
山「ツムグさん···ケイタさんが、オレ達に何か伝えたいみたいだ」
タダシ君に言われて、零れる涙を拭ってケイタ兄様を見れば···私達を見ながら、空を···指してる?
思わず空を見上げてみても、何かがあるわけじゃない。
なんだろう···
もう一度ケイタ兄様を見ると、さっきと変わらず空を指さしたまま僅かにその手を動かした。
···わかった!
その意味が理解出来た私はタダシ君の腰に手を伸ばし、そこに留めつけられている物を抜き取った。
これで、あってるよね?
そういう視線を投げかければ、ケイタ兄様は薄く笑って頷いた。
『タダシ君···私がケイタ兄様の指示をこなすから、その次に何か指令が出たら、お願い』
山「わ、わかった」
もう一度ケイタ兄様と視線を合わせ、気付かれないように銃口を空に向ける。
多分ケイタ兄様は、銃砲を鳴らして気をそらせろって言いたいんだ。
これなら、私にも出来る。