第2章 風のざわめき
~ タダシside ~
オレ、どうしたらいい?
真横で口付けてる二人を見ないように、目に手を当てる。
正確には、このツキシマって男がツムグさんを引き寄せて···の事だけど。
まさか真横にオレがいるのに、なぁ···
月「なんて顔、してんのさ。子供じゃない、んだろ?」
『初めて···だったのに···』
こんな二人の言葉さえ、風や波の音が守っているかのような静かな時間が過ぎて行く。
でも。
そんな時間は一瞬にして、終わった。
『ツキ···シマさん?···ツキシマさん!!お願い目を開けて!!ツキシマさん!!』
さっきまでの静寂とは打って変わって、悲痛なツムグさんの叫びが響く。
「ツムグさん?!どうしたんですか?!」
咄嗟に声をかけると、ツムグさんは···さっきのコガネのように、ツキシマという男の名を呼びながら体を揺すっている。
···嘘だろ?
つい今さっきまで、笑っていたじゃないか!
さっきまでツムグさんと会話してたじゃないか!
『ツキシマさん!!お願い···目を、目を開けて···』
「ツムグさん!···ちょっとどいて」
まるでしがみつく様に体を抱き締めるツムグさんを引き離し、代わりにオレが前に入る。
口元へと耳を当てれば···まだ、息はある。
手首や首筋に手を当てれば···微かに鼓動を感じ取ることは出来た。
だけど···それは本当に微かな鼓動で···
このまま放置していたら、やがてその鼓動は働く事をやめてしまいそうな···弱々しさだ。
どう告げるか、迷う。
オータさんの戦いは、未だ決着は着かず長引いている。
そこかしこにいる船員達も、こちらを伺っているのが分かる。
だったら···いっそ今は···
力なく座り込むツムグさんを前にして、オレは上着を脱いでツキシマという男の頭に掛けた。
『タダシ···くん···?』
何をしてるの?と言いたげなツムグに向けて、オレは敢えて何も言わずに首を横に振って見せた。
『うそ、だと言ってよ!ねぇ!タダシくん!!』
オレに縋りつくツムグさんを、ただ···黙って抱き寄せる。
『嫌だ···私まだ、何も伝えてないのに···いやぁぁぁぁぁっ!!』
悲痛な叫びを隠す様にオレはその腕に力を入れて抱きしめた。