第2章 風のざわめき
~ ツキシマside ~
「泣くなよ···」
そう言って頬に伸ばした手に、ポチが自分の手を重ねる。
たったそれだけの事なのに。
なんて···暖かい気持ちになるんだ。
出会ったばかりで、たった数日同じ時間を共有しただけだっていうのに···おかしいだろ?
だけど、なぜか···コイツに触れると、暖かい気持ちになる。
初めて思う···
愛されてみたい、と。
初めて思う···
···愛してみたい、と。
なのに、僕にはもう···そんな時間がなさそうだ
これが僕への罪状だとしても、抗う事さえ···許されない。
セイジョーでの生活で今まで重ねてきた罪の重さが、今の僕の姿。
人を騙し、奪い。
時には表情ひとつ変えることなく、この手を赤く染めた事だってある。
だから、やっと見つけた小さな光に手が届きそうな時に、どんなに手を伸ばしても掴み取る事が出来ないのは···きっと、誰かを犠牲にしながらも···
何食わぬ顔で生きてきた僕への、罰。
だからせめて、帰してやりたい。
ツムグが愛する家族の元へ。
ツムグを愛する···家族の元へ。
僕はひとりでも、大丈夫デショ。
小さな子供の頃から、ひとりで生きてきたんだから。
今更、誰かの温もりが欲しい、なんて。
···誰が理解してくれるっていうんだ。
もし、神と呼ばれるものがいるならば。
願わくば、僕が幸せな気持ちでいるうちに···
連れて逝ってくれ···