第2章 風のざわめき
黄「ケイタさーーーん!!!」
コガネの悲痛な声に、私もタダシ君も顔を上げる。
その先に見えたものは···何度もケイタ兄様の名前を呼んでは、体を揺するコガネの姿。
何度呼んでも、どう揺すっても···反応がないように見えるケイタ兄様の体が、まるで糸が切れたマリオネットのように床に伏せた。
『うそ···でしょ?』
山「ケイタさん···まさか···」
一瞬緩むタダシ君の隙を見て、私は駆け出した。
でも···
山「ツムグさん行くな!オレから離れたらダメだ!」
『離してタダシ君!』
すぐに気が付いたタダシ君に腕を捕まれ、元の場所まで戻されてしまう。
『ケイタ兄様の所に行かせてよ!···お願い、します···タダシ君···』
次々とこぼれ落ちる涙と一緒に懇願しても、タダシ君は首を横に振った。
山「今はダメだよ···向こうにはコガネもチカラさんもいる。それに、オレはオータさんから二人を預かってる···だから、今は···耐えて」
『今はダメって、じゃあいつならいいの!!』
感情のままに発した言葉が、棘を成してタダシ君へと向かってしまう。
タダシ君の体越しに見れば、コガネの声に慌てて駆け寄ったチカラさんがケイタ兄様のあちこちに触れて様子を探るのが見える。
そこにいる二人の表情は···とても真剣で、そして···お互いに目を合わせることも無く、何も言葉を発してはいなかった。
どうして、こんな事に···
私がここに来なければ、今頃はみんな安泰な生活を続けていたかも知れないのに。
膝の力が抜けて、その場に座り込む。
とめどなく流れ落ちる涙で、周りさえ見えない。
月「ポチ···泣くな、よ。きっと、大丈夫···だから」
掠れた声で言いながら、ツキシマさんが私を見る。
『だって···ケイタ兄様が···私のせい』
言葉を詰まらせながら辿々しく言えば、ツキシマさんは小さく首を振った。
月「人の命ってのは、誰かが···決める事は、出来ないんだよ。生まれた時に···決まってる、らしい。だから、さ?ポチのせいじゃ、ない···」
そう言って私の頬に触れるツキシマさんの手が、僅かに震えてる。
いつもはそんなことないのに、それだけ傷が痛むのだろうと思うと···また、涙が落ちた。