第2章 風のざわめき
凄い···ここまで本気のオータ兄様を見るのは初めてかも知れない。
及「ハッ!」
桜「遅いっ!!」
キーンと響く音を響かせながら、オータ兄様とオイカワさんが剣を混ぜりあう。
お互いに無駄な動きがない分、その時間も長く続いている。
前はよく、オータ兄様とケイタ兄様が鍛錬するのを見てたけど、それに近いものがある。
あの人、チャラチャラした印象の方が強かったけど···それを忘れてしまうくらいの腕の持ち主だったんだ···
山「オレ、あれ程にまで真剣なオータさんの姿···初めて見た」
『タダシ君は、どっちかと言えばケイタ兄様から習い事してたから、かな?』
山「そうじゃなくて···普段はああいう時、ケイタさんが真っ先にって感じで、オータさんは戦略とか考えたりしてるのに」
タダシ君が言いたいことは、何となく分かる。
今までだって、海を旅する時は何かあればケイタ兄様が迎え撃つ形が殆どだったから。
だから、オータ兄様が自分で···って言うのは、ホントに珍しい。
それと言うのも、多分···ケイタ兄様が···あっ!
『ケイタ兄様、ケガしてたはず!』
そう口に出してケイタ兄様の所へ行こうと立ち上がると、タダシ君が前に立ちはだかって私を止めた。
山「オータさんはオレに、二人を守り抜けと言った。だから、ここから動かす訳にはいかない」
『でもそれじゃケイタ兄様が!』
山「それでも、です。オータさんは、何が起きても二人を守り抜けと言ったんだ。だからオレは、その指示を破ることは出来ない」
頑なにその場を動こうとはしないタダシ君は、普段の姿とは別の表情を見せていた。
山「そもそも今回の事は、オレにだって責任があるんだ。オータさん達はオレを責めたりはしなかった···けど、それにいつまでも甘えていたらオレはずっとこのまま···弱いままなんだ」
···強くなりたい、せめてみんなのお荷物にならないくらいに。
ケイタ兄様に悔し涙を見せながら言ったタダシ君の言葉を思い出す。
それを聞いて、ケイタ兄様が時間があればタダシ君に剣の稽古をつけていた。
もう···充分に強くなってるよ、タダシ君。
心も、剣の腕も。
それに自分で気づいた時が、ホントに一番強くなれた時···なんだろうなぁ···
私もいつか、そうでありたいと心に染みた。