第2章 風のざわめき
今、ケイタ兄様が声を掛けなければチカラさんは危なかった。
あの人、あんな場所から狙いを正確に定められるなんて···
桜「ケイタ···ここに乗り込んだ時より随分と鮮やかな服装になったんじゃないのか?」
慧「派手好きなオレにピッタリだろ?どうだ···似合うか?」
こんな時に何を言ってるの!···と言いかけて、ケイタ兄様の姿に愕然とする。
さっき···ツキシマさんに抱えられてあの場を離れる時は、あんな状態じゃなかった。
なのに今は···
『オータ兄様···もしかしてケイタ兄様は深手を、』
桜「ケイタが隠したいんなら、今は騙されておこう。アイツは後で、俺がキッチリ灸を据える」
『後でって、深手なら早くしないと!』
あのケイタ兄様が、遠出に見ても肩で息をしているように見える。
桜「そうだね。時間がないのは、ケイタもら、そこの彼も同じだ。早くケリをつけないと取り返しのつかないことになる」
オータ兄様の、いつになく真剣な顔に私は···今を切り抜けるには、自分で何とかしなきゃいけない。
そう···考え出した。
『オータ兄様、』
桜「先に言っておくけど、自分でどうにかしようと思うんじゃない。怪我をしたお前は···ただのお荷物にしかならないんだよ」
冷たく言い放たれた言葉に、身が竦んだ。
···ただの、お荷物。
そのひと言が胸に突き刺さって、痛い。
それに、私のことを“お前”って呼ぶオータ兄様は初めてだ。
それだけ私が勝手な事をしたから、いよいよオータ兄様の逆鱗に触れてしまったんだろう。
及「兄妹のキズナごっこは満足した?こっちはいきなり突入されて迷惑してるまんまなんだけど?な~んにも、悪いことしてないのに、さァ?」
確かにオイカワさんの言う通り、私は攫われたのではなく自分からツキシマさんに着いて来た。
お互いに負傷者の数は少なくはないけれど、今のオイカワさんの言い分には、全てこちら側が悪いように聞こえるし。
『オイカワさん、』
桜「黙っていなさい、ツムグ。さっきはゴメン、さっきは言い過ぎた。ちょっと冷静になれなくて、ゴメン。それから今から少しの間、優しい兄様でいられないけど···どうか、怖がらないで」
オータ兄様の言葉に黙って頷くと、少し悲しげな瞳を揺らしたオータ兄様が···瞼を閉じた。