第2章 風のざわめき
~ チカラside ~
「俺がいることを忘れられてちゃ困ります」
目標に照準を合わせたまま、微動だにせず言葉を投げる。
桜「チカラさん!」
「すみません···ちょっと手こずってる内に大変な事に···」
足下に転がるカゲヤマと呼ばれる男にチラリと視線を流し、ツムグさんに目線を移す。
『どうしてチカラさんがここに···?』
驚きのあまり目を丸くする彼女に、オータさんが諸事情を説明してくれる。
その間も、軽く処置を施した細い腕はジワジワと赤く染まって行く。
···手間かかり過ぎだろ、俺。
いくら普段は平和な城下で花屋を営みながら生活してるからって、海賊一人に時間を掛けすぎだ。
陛下から、あれだけ無事を言われてるってのに。
これは···減給6ヶ月で済めばいい方だな···
ダイチ様の長い長いお説教は覚悟するとして、取り敢えずは被害が広がらない内に。
「大人しくして貰おうかな、セイジョー海賊団の船長···オイカワ」
及「フッ···このオレが、そう簡単に捕まるワケないじゃん?」
口端だけでニヤリと笑うオイカワは、前も後ろも塞がれていると言うのに余裕があるように見えた。
及「別にオレは、逃げも隠れもしない。ただ、お前らが···おマヌケさんなだけさ」
「なっ!!」
柱に背を預け腕を組みながら、オイカワは俺達を見据える。
「本当に逃げも···隠れもしないって言うなら···それは有難いけど。あまり信用は出来ないな」
あくまでも銃を下ろさず、そのまま一歩ずつオイカワへと足を進める。
コイツをとっ捕まえてしまえば、子分達を捕らえるのはそう難しくはないだろう。
そう···一瞬気が緩んだ瞬間。
慧「チカラ屈め!!」
ケイタさんの声が響き、咄嗟に身を低くする。
俺のすぐ真横を矢羽根が掠めて飛んだ。
及「チッ···余計な事を」
もし今···ケイタさんの声がなかったら。
そしたら、俺は。
目の前の床に刺さる矢羽根を見て、ゆっくりと飛ばされた方を振り返れば。
国「えっと?オレがいる事を、忘れて貰っちゃ···困ります。でしたっけ?」
やる気のなさそうな涼し気な顔の男が一人、離れた場所に立っていた。