第2章 風のざわめき
桜「こんな時にケイタみたいな事を言うんじゃない!···ちょっと痛いかも知れないけど、我慢して」
オータ兄様が襟元のスカーフを引き抜いて、私の傷口を強く縛る。
押さえた手を離したせいで、そのスカーフでさえあっという間に赤く染まっていく。
『ツ···キシマさん、は?』
桜「二発のうちひとつは傷は深いけど脇腹を掠めただけだ。それから、奇跡的に急所は外れてはいるけど···もう一発は貫通してるせいで出血が多すぎる。このままじゃ危険な状態なのは変わらない」
そ、んな···
オータ兄様から聞かされた事に愕然としながらツキシマさんを見れば、さっき受けた傷であちこちが真っ赤に染まっている。
及「オレの船に勝手に侵入して来て、自分達の世界に浸って···満足か?」
冷ややかな言葉を放つオイカワさんは、同じように冷たく薄笑いを浮かべながら私達を傍観している。
及「そろそろ、お別れの時間が近いんじゃない?懺悔の言葉くらい、聞いてやったら?···もっとも、口が聞けたら、の話だけどね」
そう言ってオイカワさんが、またもツキシマさんに銃口を向ける。
『やめて!!』
及「あ、そうだ。まだキャンキャンと吠える子犬がいたね···先にそのうるさい口を塞いでおこうか」
乾いた音が立て続けに2回も聞こえた···
でも···それはこちら側にいる誰にも当たってはなくて、代わりに聞こえたのは···オイカワさんが小さく呻く声で。
縁「俺がいることを忘れられてちゃ困ります」
桜「チカラさん!」
え···チカラさん?!
普段の姿じゃないから分からなかったけど···よく見ればあれは確かに、城下にある花屋さんのチカラさんだ!
『どうしてチカラさんがここに···?』
桜「チカラさんはね、ニロと同じアサヒ様の臣下なんだよ。それから、そのうち分かるから教えとくけど、魚屋のスガも臣下だよ。街に点在させることで何かが起きた時にすぐ対応出来るように、そうしてたってアサヒ様から聞いたんだ」
アサヒ様の、臣下。
だからか···チカラさんの足元には、さっきツキシマさんに叫んでいた人が倒れている。
それにスガさんまで臣下の人だったとは···あのナンパっぽい姿からは想像出来ない。
桜「ニロとスガさんは今、アズサに着いてくれている。あの二人なら、安心して預けられるからね」