第2章 風のざわめき
オイカワさんの冷たく光る視線の向こうに、心の中を探る。
人の心は、必ず何かに反応して···揺れるから。
『私とオイカワさんとの違いは···』
及「違いは?」
ギュッと目を閉じて、ゆっくりと開いていく。
そっと小さく振り返れば、そこには···大事な人達がいて、きっと大丈夫だと···安心出来る。
『私とオイカワさんとの違いは···誰かに愛されているっていう、暖かさです』
まっすぐにオイカワさんの目を見つめたまま、私は続けた。
『誰かに愛されてる自信、誰かを愛するという気持ち···誰かを愛したいという、気持ち。それが私にはあって、アナタにはないものだと思います』
及「くだらないな。愛なんて存在はしないんだよ、誰も彼も口先だけでは何だって言える···可哀想な生き方しかしてないんだから、さ?」
···違う。
この人はいま、僅かに瞳を揺らした。
『可哀想なのは、オイカワさんです。誰からも愛されず、誰も愛したい事が···ないんでしょ?愛のカタチはひとつじゃないんです。でも、それさえ分らないほど···オイカワさんはきっと、ひとりで殻に閉じ篭ってた』
及「黙れ···」
確実に心が揺れてる。
さっきの軽口とは違って、明らかに私に対して小さく怒りに震えた口調。
『愛なんてない、愛なんて必要ない。そう言いながらも、本当は誰よりも愛が欲しかったんじゃないですか?』
及「う、るさい···うるさいんだよ!!もう黙れ!!」
それは、一瞬の出来事だった···
オイカワさんが叫びをあげた直後、肩口に激痛が走る。
桜「ツムグ!!!」
オータ兄様が悲痛に私の名前を呼ぶのが聞こえて来て。
月「ツムグ?!」
ツキシマさんが、初めて私の名前をちゃんと呼んだ···
『···っ!!』
撃たれた衝撃で床にへたり込み、痺れるような痛みに耐える。
押さえながらも、冷静に傷口を確かめる。
···大丈夫、こんなの致命傷なんかじゃない。
痛くない···痛くない···大丈夫···!
痛みに気を持って行かれないように自分に暗示を掛ける。
桜「ツムグ!」
オータ兄様が座り込む私を抱き寄せ、傷口を確かめる。
『オータ兄様···大丈夫だから。こんなの、野良犬に噛まれたと思えば、全然···平気、何とも、ないよ』