第2章 風のざわめき
桜「分かった。タダシ、援護に回れ」
山「はい!」
「勝手な事をしないで貰おうか」
動き出す二人に向けて、また引き金を引く。
キーンと耳に残る嫌な音を残して、あの店の店主···いや、ブラックツインズの船長だろう男が剣で弾いた。
「やるじゃん?···さすが、と···言うべきか?」
桜「悪いけど、君の茶番に付き合うつもりはない。俺は、俺の意思で動かせて貰う」
「それが例え、手遅れだと分かっていてもかい?ほら、見てみなよ?ツキシマは既に···虫の息だ」
そんなオレの言葉を他所に、バタバタと駆け寄って処置を施そうと動く。
ツキシマは何度か首を振ってはいるが、柱にもたれ掛かり、呼吸は浅い。
じきに、逝くだろ。
もう···遅いんだよ。
『オイカワさん···でしたよね?』
「あぁ、そうだけど?ここへ来てやっと名前を覚えてくれたんだね。どう?こっちに来る気になった?」
銃口を下ろし、代わりに両手を広げて歓迎の意味を表して見せる。
『そっちには行きません。私は、私の意思でここから動かない。それがもし、その先の未来を見る事が出来なくなるとしても···私はそれでもいいです』
兄妹揃って、頑固なこと。
「はいはい、能書きはいらないから。それともなに?それが兄妹のキズナってやつ?」
『オイカワさん、あなたは···誰かに愛された事がないんですね』
「は、ぁ?この期に及んで何言い出すかと思ったら、なんなの?正義の味方気取り?···同じ、海賊のクセに」
突き放すように言うと、小娘は小さく瞳を揺らして目を閉じた。
『確かに、そうかも知れません。いくら“元”って言っても、立ち位置は同じ。だけど、私とオイカワさんとでは大きな違いがあります』
くだらない。
いま海賊だろうと、元海賊だろうと違いなんてない。
いくら綺麗事を言ったって、そんなのは···自分の美学を飾る為の安っぽい言葉だ。
『それがオイカワさんには、分かりますか?』
「···じゃあ聞くけど。オレとお前の違いってのはなにさ?」
これでつまらない事を言ったら、容赦なくツキシマと二人仲良く···逝かせてあげるよ。
『私とオイカワさんとの違いは···』