第2章 風のざわめき
~ ツキシマside ~
ポチを抱えて、勢いよく船長室のドアを開ける。
誰もいない?
聞こえてくる喧騒に耳を傾ければ、甲板にオイカワさん達の姿を見つけた。
対峙している人物を確認すれば、それがセイジョーの船の人間じゃないことはすぐにわかる。
ただし、ブラックツインズの仲間でもなさそうだ。
···誰なんだ?
オイカワさん達と堂々と向き合い、表情ひとつ変えずに銃口を向ける男。
あの店にも、潜り込んだ船にもいなかった男だ。
山「ツムグさん!!」
『タダシ君!』
しまった···追いつかれたか。
でもまぁ、アイツも僕と同じ怪我人だ。
焦る必要も、な、い···?
桜「···さぁ、返して貰おうか」
チッ···こっちも僕を追いかけて来たのか。
じゃあイワイズミさんの相手は、同じ顔をしたもう一人の方だけ、か。
「残念だけど、生憎と僕ひとりの判断じゃ返せないんだよねぇ。勝手な事したら、怒られちゃうし?」
···そう。
まだ、返してあげられない。
···まだ、ね。
及「ツッキー···その子をコッチに」
僕達の騒ぎに気付いたオイカワさんが、薄笑いを浮かべながらポチを見る。
「どうしてです?人質なら、誰が囲ってたった同じデショ?···それとも、オイカワさんともあろうお方が、こんな小娘ひとり抱えていないと分が悪いとか?」
···違う。
そうじゃない。
僕は···
及「いいから早く連れて来い、と言ってる」
薄く浮かべた笑いをギラりとしたものに変えながら、今度は僕に睨みを向ける。
「···その命令には従えない、と、言ったら?」
影「何を血迷ってんだボゲェ!さっさとコッチに渡せ!!···じゃねぇと!」
「じゃ、ないと?···ッ?!」
僕が言い終わる前に、乾いた音が響く。
同時に焼けるような痛みが体を走った···
『ツキシマさんっ!!』
あぁ···そうか···そう言うことか···
及「ツキシマ、この船の掟を忘れたのか?···裏切り者には···」
···死を。
そんなの、どうだっていい。
誰もがいつかは、どこかで命の終わりを迎える。
それが今なのか。
先にあるいつかなのか。
大差···ないんだから。
『ツキシマさん!···ツキシマさんっ!』
「キャンキャン吠えるなよ、ポチ···」