第2章 風のざわめき
~ オータside ~
岩「残念だが、あの女は使い道があるから返すワケにはいかねぇよ···諦めんだな」
行く手を阻み、俺達に行き先を見せないように立ちはだかる。
「悪いけど、そっちこそ···諦めて貰おうか」
全身の血が沸き立つ感じを覚えながら、俺は何食わぬ顔で前へ足を運ぶ。
慧「オータ!」
「うるさいよ、ケイタ。お前はお前の仕事をしろよ···ここは任せる。タダシ、行くよ」
慧「あらまぁ、人遣いの荒いこと」
お前にこの場を預けるのは、誰より···お前を信じてるからだ。
岩「行かせねぇって、言ってんだろ!」
振り下ろされる剣を自分の剣で受け、止める。
「タダシ!先に行け!」
山「はい!」
負傷してるタダシを先に通し、尚もまだ力で押してくる相手の剣を受け止める。
岩「貴様···」
「君にはひとつ、教えてあげよう···剣技は、力業だけじゃ···ないんだよ」
渾身の力を込めて跳ね返し、そのまま懐に入って当身をする。
岩「グッ···」
「見たところ、君の剣筋は悪くない。だけど、その伸び代に気が付いていない内は···俺どころか、あのツムグにだって勝てないよ」
岩「ふ···ざけんな!」
闇雲に振り翳される剣を、紙一重のところで交わしてやる。
「ほら、ね?熱くなればなるほど、君の剣筋はこっちから丸見えなんだ」
慧「相手が悪かったな、お前。コイツを怒らせると···痛い目見るぜ?」
「ケイタ。お前は、また人をそういう風に···」
呆れながら息を吐けば、ケイタは小さく笑って誤魔化した。
慧「あとは任せるとか言って、お前こそ熱くなり始めてんじゃねーよ。ほら、早くタダシの後に続け?じゃねぇと、おいしいトコ···タダシに持ってかれんぞ?アイツはオレの、一番弟子だからな」
「そうだったね。うっかり傷を負ってしまう所も、師匠譲りかな?」
タダシはさっき、その優しさからトドメを刺すことが出来ずに負傷した。
また、同じ事が起きないとは限らない。
早く···後を追わないと。
「ケイタ···死ぬなよ?」
慧「アホか。オレ様を誰だと思ってる?」
ニヤリと笑うケイタを見て、任せるぞ?と、ひとつ頷く。
「悪いけど、先を急ぐ。君は俺の弟と···楽しんで?」
捨て吐く様に言って、タダシの後を追った。