第2章 風のざわめき
ケイタ兄様···
慧「ウチのジャジャ馬娘を返して貰おうか」
キラリと光を帯びる剣を構え、ケイタ兄様がツキシマさんを見据える。
月「言っとくケド、僕が攫ったんじゃない···自分から着いてきたんだ」
慧「ここにいる以上、同じ事だ」
どちらも道を譲らない睨み合いに、妙に冷静になって来る。
ケイタ兄様の服、返り血が付いてる。
それだけじゃない。
少し避けた袖からは、切り傷が見える。
無茶な戦い方なんてしないケイタ兄様がそんな姿を晒すなんて、それだけでこの船にいる人達の強さが垣間見えた。
海賊同士の争いに、1対1の綺麗な勝負はない。
それを裏付けるような、ケイタ兄様の姿。
桜「いた···ケイタ!一人で突っ走···ツムグ···」
山「ツムグさん!」
オータ兄様と···タダシ君まで···
ケイタ兄様程ではないけど、あちこちが血で滲んだシャツを着たオータ兄様。
すぐ後ろに立つタダシ君は肩を負傷したのか、流れる血を押さえている。
みんながみんな、こんな風に傷を負いながらも···来てくれたんだと思うと、視界が滲んで行く。
慧「遅せぇよオータ。突っ走ってんじゃねぇ、お前らがのんびりなんだっての」
形勢が有利になった事で、ケイタ兄様がニヒルな笑いを零す。
慧「で、どうする?大人しく引き渡してくれたら···その方がお互いに都合がいいんじゃねぇのか?後ろを見ながらってのは、分が悪いだろ」
月「···」
私の手を引くツキシマさんの手に力が入り、そのまま更に背中に隠される。
慧「それがお前の答えか?」
「だったら俺が相手になろう」
月「イワイズミさん···」
背後からの声にツキシマさんが振り返り、声の持ち主を見て口端を上げる。
岩「ツキシマ、ここは俺が引き受ける。お前はソイツをオイカワの所へ連れて行け」
月「···了解。じゃ、そういう事で」
『あっ···』
そう言ってツキシマさんが私を小脇に抱えて走り出す。
慧「待て!」
岩「おっと···余所見してるんじゃねぇ。お前の相手は···俺だ!!」
桜「ツムグ!!」
『オータ兄様!!』
オータ兄様の声を聞きながら、その姿が遠ざかって行く。
『ツキシマさん!降ろして!』
月「相手が悪い···今は黙って、僕に連れ去られとけよ」