第2章 風のざわめき
月「なんだ···いまのは。それに敵襲って」
ツキシマさんが言いながら外していた武器を身に付けると同時に大きな音を立ててドアが開く。
岩「ツキシマ、緊急事態だ!」
月「でしょうね」
岩「俺は状況確認に回る。ソイツを逃がすんじゃねぇぞ」
それだけ言うと開け放たれたドアから、また飛び出して行った。
緊急事態と、敵襲。
もしかしたら、という思いが更に鼓動を早くする。
私は窓に駆け寄り、そこから見える外の状況に視線を彷徨わせた。
『あっ!』
風にはためく見慣れた海賊旗に思わず声が出てしまう。
来て···くれたんだ。
月「へぇ、あれがブラックツインズの船ってワケ?」
私に覆い被さるようにツキシマさんが立ち、物珍しそうに様子を伺った。
月「こんな日中堂々と仕掛けて来るとか、ホント理解不能。で?助けが来たら、どうする?···帰りたい?」
窓ガラスに映るツキシマさんが妖しく笑いを浮かべながら、ガラス越しに私の顔を覗く。
『帰して、くれるんですか?』
月「···どうだか。さて、と耳を済ましてみなよ···通路が騒がしくなって来たね。いよいよ来るかな?」
言われるように意識を向けると、確かにドアの向こうからいろんな人の声が聞こえて来る。
その声に混ざって、剣がぶつかり合う音さえ聞こえ鳥肌が立った。
月「行くよ」
『行くってどこへ?』
月「ここに居てもて仕方ないデショ。正面突破されたら逃げ道ないんだから···捕まえたりはしないけど、僕から離れると明日の朝日が拝めなくなるかもよ?」
言いながらツキシマさんが剣を抜いて、外の様子を伺うようにドアを細く開く。
月「···ポチ、行くよ」
空いた手で私の手を引いてドアの隙間から体を滑り出させる。
月「行先は···そうだね、甲板にしよう。そこまで走るよ、いいね」
私が返事をする前に走り出し、手を引かれている私もそれについて走り出した。
でも···どうして甲板に?
こういう時は、甲板になんて出たらどこから狙われるか分からないから危険なんじゃ?
そんな事を考えながら走り続け、あと少しで···と言うところでツキシマさんが急に立ち止まる。
月「チッ···随分とお早いお着きで」
ー ツムグ!! ー
私の名前を呼ぶ誰かの声。
その声は、私が小さい頃から聞きなれた声だった。