第2章 風のざわめき
~ イワイズミside ~
「おい。その不機嫌なツラいい加減やめろ」
街に遊びに行ってたハズのオイカワが、日を跨ぐことなく帰ったと思えば。
仏頂面晒して黙り込んでやがる···鬱陶しい。
及「あと少しで、人質増やせたのにさ!しかも極上の美人!···人妻だけど」
「てめぇ、本当に見境ねぇな」
及「だってイワちゃん!その女はブラックツインズの仲間だし!ただの人妻じゃないし!」
ブラックツインズのって、あの店の店主の女房じゃねぇか。
まぁ確かに、美人ではあったが···俺には関係ねぇ。
「お前が言うそのオンナは、身重だっただろ。そういうヤツは手出ししねぇハズじゃねぇのか?」
いくら何でも、これから産まれてくるガキまでお陀仏にするとか···ねぇだろ。
及「言っとくけどイワちゃん!オレは別に取って食おうとか思ってないからね···使える駒はたくさんある方がいいってコト!」
ギャンギャンとうるせぇオイカワをムシして、カゲヤマと海図を広げて話を進める。
あのチビを帰してやるつもりはねぇ。
ツキシマが言う通り、この船にはドクターがいねぇ。
なら、アイツは生かしておいてやる代わりに、このままセイジョーの船で働いて貰う。
帰ることに諦めが着くまでは、あのままツキシマと同室で生活させればいいだけだ。
カラスノを離れ、別の海域まで行っちまえば諦めもつくだろ。
影「イワイズミさん。出発するなら早い方がいいです。幸い、この数日で食料も水も確保出来てます。タナカさんもヒナタも戻って来てるし、あとはクニミがもうすぐ戻るので···」
「分かった···全員揃ったら船を進めよう。それでいいな、オイカワ」
及「任せるよ」
「だ、そうだ」
カゲヤマにそう告げると、コクリと頷いた。
あとやる事は···
「オイカワ、ちょっとここを離れる。俺が戻るまでに仏頂面直しとけ」
及「イワちゃん、どこに?」
ドアを開け体を外へ向けながらオイカワを振り返る。
「ツキシマの所を見てくる。アイツにも息抜きさせてやらねぇといけねぇからな」
及「はいはい、見張りを代わってやるって事ね。イワちゃん?オイタはダメだからね?」
「するか!お前じゃあるまいし。あんな小娘に興味はねぇよ」
ヒラリと片手を上げてドアを閉める。
ひとつ息を吐いて、あの部屋へと歩き出した。