第2章 風のざわめき
~ ツキシマside ~
なんなんだろう、このモヤモヤする感じ。
初日にこの部屋に連れて来てから、ずっと感じてる気持ち。
今までだって、攫ってきたオンナの見張りなんて何度もしてる。
僕がいない間に飢えたヤツらに何をされようと関係ない、どうせオイカワさんに遊ばれ尽くしたら適当な場所に捨てられるんだから。
そう、思って来たのに。
なのに、どうしてコイツだけは···誰にも触られたくないんだろう。
それが気になって、どうしてもという用事以外は部屋から離れられない。
今朝からそわそわして見せる態度も、もしかしたらこの船から逃げ出そうとしてるんじゃないかと思うと、尚更だ。
別に、逃げられようとどうしようと···それは構わない。
けど、どうせなら···側に置いておきたい。
そんな思いが次第に大きくなって、僕の心を支配していく。
常日頃から言い聞かせられている掟。
ー 裏切り者には···死を··· ー
もし僕が、逃げられたのを見過ごしたら。
それはきっと、掟に従って見せしめのように命を落とす。
別に死ぬなんて怖くはない。
この船に乗り込んだ時から、いつだってどこで野垂れ死にしたって後悔はないと思ってる。
それが、海賊という生業だからね。
この数日一緒に過ごしている内に、口数は少なくともいろんな話はした。
それはたわいもない会話であったりもしたけど。
その中でコイツは···周りに愛されて育ったんだと、そう感じた。
親から捨てられ、子供の頃から人を騙して盗みを働いて生きてきた僕とは違う。
愛された記憶なんてない。
誰かを愛した事さえない。
仕事の為にオンナを騙し、小銭を握らせて抱いた事もある。
そこに···愛情なんて、なかった。
あったのは、欲にまみれた···交わりだけ。
煩い哭き声と息遣い、安っぽく軋むベッドの音。
そんな物に囲まれた、安っぽい僕の···生き様。
ただ···それだけだった。
誰かを愛したことなんてない。
誰かに愛された事もない。
愛し方も、愛され方も知らない。
そんな僕が、モヤモヤする感情に溺れそうになるなんて···理解不能だよ。
もし。
もしこの感情が愛だというのなら。
神様はきっと、イカれたヤツなんだ···