第1章 水鏡の揺らぎ
悪い人ではないって言うのは分かってるんだけど、なんかこう···いつもキラキラした爽やか笑顔に丸め込まれそうで。
菅「今日は1人?」
『えぇ、まぁ···そういう事になりますかね···』
一定の距離を置きながら、何となく答える。
菅「そっかぁ、1人なんだ?···どう?これからお茶でも一緒にどう?今日は生憎、オレ1人で店番だからさ?」
『い、いえ!おひとりで店番だったら、お茶とかしてる場合じゃないですよね?』
菅「いいのいいの、どうせヒマだし。ツムグちゃんがお相手してくれるなら、店なんてすぐ閉めちゃってもいいくらい!」
いや、ダメでしょ!
それに、お相手って、なんの?!
お茶飲むだけじゃないの?!
『あの、私まだ未成年だし!お、お酒とかムリだし!だから、えっと···』
じわりじわりと距離を詰めてくるスガさんにタジタジとしながら、やっぱり1人で街をあるくんじゃなかった···なんて、後悔さえ浮かんで来る。
菅「そんなに警戒しなくても、捕まえて噛み付いたりしないからさ」
スっと伸びて来るスガさんの腕が、私の手に触れる、その瞬間···目の前に見知らぬ背中が壁を作った。
「おい。その辺にしといたらどうだ」
···誰?
菅「その辺に、って。別にオレは何も···ね、ツムグちゃん?」
「俺にはそうは見えなかったがな···こんな、年端もいかねぇ幼子連れ込んで、何するつもりだったんだ」
幼子?
それって私のこと?!
『あ、あのっ!』
「とにかく、だ。この幼子は親元に返せ、じゃなきゃ···コイツが黙ってねぇぞ」
ゴソッと動いたかと思うと、スガさんの顔色が変わるのが見えた。
菅「それは···はぁ、ツムグちゃん···また今度ね!お兄さん達によろしく!」
何を焦っているんだろ、スガさん。
いつもなら、誰が止めに入ってもオータ兄様達が出てくるまでは絶対しつこくしてくるのに。
「おい、お前」
目の前の背中がクルリと振り返り、見知らぬ人が私を見下ろした。
「お前、親御さんはどうした?」
『あ、えっと···両親は私が小さい頃に···』
遠くへ行ってしまった事をどう説明しようかと考えていると、その人はなぜか軽く目を伏せて息を吐いた。
「スマン、悪い事を聞いた。お前、家族はどうした。まさか1人じゃないだろ」