第2章 風のざわめき
~ アズサside ~
桜「アズサ···」
私の名前を言って、そのまま黙るオータをそっと見つめ返す。
いつか、いつかこんな日が来るかも知れないと予想はしていた。
子供の時に親に売られ、ずっと小さな酒場で働かされていた頃お客として通っていたオータとケイタ。
最初の頃は二人の素性を知ってただのお客として接してたけど、それもいつの日か···毎日会いたいと思うようになって。
お店以外でも会うようになって。
会えない日は、切なくてひとりで泣いた時もあった。
桜「アズサ。俺達と一緒に···行こう」
そんな言葉をくれて、私を大きな海原へと連れ出してくれた。
初めての船での生活は慣れるまでが毎日大変だったけど。
心優しいタダシや、いつも前向きなニシノヤ、それにどんな時も前向きなコガネに助けられて生活して来た。
そしてカラスノへ辿り着く少し前の、星が眩しい夜。
桜「これから先、何があっても守るから。だから···アズサの未来を、俺に預けて欲しい」
そんな言葉をくれて、私達は共に生きる道を選んだ。
カラスノで新しい生活が始まってようやく落ち着いて来た頃、体調の異変に気が付いて···私の体がひとりだけの物じゃない事が分かって。
オータに、告げた。
オータはとても喜んでくれて、すぐにケイタやツムグちゃん、船番をしているみんなにも伝えてくれて、新しく増える家族をみんなが心待ちにしてくれた。
オータ、分かってる?
もうすぐこの子はアナタに会う為に産まれてくるんだよ?
私がオータを必要としたように、オータが私を必要としてくれたように。
この子も···
「オータ?私をそばに置いてくれると誓ってくれた時の言葉、覚えてる?」
そっとお腹に手を当てながら、オータに問いかける。
桜「もちろん···忘れてなんかいないよ」
「オータには、守るべき物が増えた事も···分かってる?」
桜「···あぁ、分かってるさ」
私の手の上に自分の手を重ねて、オータは微笑んだ。
「それなら···良かった」
それ以上、何も言わなくたって大丈夫。
私が愛した人だから、きっと大丈夫。
「帰って来たら、ツムグちゃんにお説教しなくちゃね?お転婆が過ぎるって」
精一杯の笑顔で言えば、オータもそうだね、と笑い返した。
神様、どうか皆に御加護を···