第2章 風のざわめき
私がこの船に来てから、もう···何日過ぎたんだろう。
助けを宛てにしているわけじゃないけど、オータ兄様達から何もアクションはない。
···見限られた、かな。
それもそうだよね?
無理やり攫われたならともかく、私は自分の意思で、ここに来ちゃったんだから。
それに、タダシくんもきっとオータ兄様達に叱られたに違いない。
私はこれから、この船でずっと生活するしかないんだ···
先行き不安な自分に、大きく息を吐く。
月「ちょっと、またため息?辛気臭いのゴメンなんだけど」
相変わらず、この人と同じ部屋で寝起きしなきゃだし。
連れてこられた初日にあんな事があってから、最初の数日はもの凄く警戒してた。
でも···
月「ほら、これ食べなよ。僕のお気に入りだから」
可愛らしい包み紙を渡され中を開くと、そこには小さくツンと尖ったものがいくつもある、色とりどりの砂糖菓子のようなものが入っていた。
『甘い···』
ひとつ摘んで口に入れると、思わず顔が緩むような甘さが広がる。
月「それ、コンペイトウって言うらしいよ。かなり日持ちもするし、前に見つけた時にありったけを買い込んだ」
同じようにそれをひとつ口に入れたツキシマさんが、以前とは違って少し柔らかく笑った。
この人、こんな顔もするんだ···
いつもは眉を寄せてるか、眉間にシワがよってるか、不機嫌極まりないか···あとはムダに意地悪な言葉を言うか、のどれかなのに。
甘いものっていうのは、こんなにも人の表情を柔らかくするものなんだろうか。
初めて見る優しい瞳に、胸の奥がトクンと小さく鳴った。
なんだろう、この···ふわっと心が暖かくなる感じ。
初めての感じ···
月「お子様が元気になるには、甘いお菓子があれば充分デショ?はい、お好きなだけドーゾ?」
手のひらにいくつもの包み紙を乗せながら、今度はニヤニヤと笑う。
···前言撤回!!!
私の小さなトキメキを返して!!
優しい···と思った直後にもう意地悪な言葉?!
騙された感が満載!
ケイタ兄様じゃあるまいし、やめてほし···
さっきまで諦めかけてた兄様達の顔が次々と浮かぶ。
オータ兄様···ケイタ兄様···アズサちゃん。
私、やっぱりみんなと一緒にいたい···
それなら···覚悟を決めるしか、ない。