第2章 風のざわめき
~ アサヒside ~
オータとケイタが二人揃って···と思ったら、そういう事だったのか。
まさかツムグさんが攫われたとは。
いや、正確に言えばそうではないのだけれど。
状況を考えれば、攫われたも同然だろう。
「話は分かった。約束通りアズサさんをこちらで預かろう。身重の体では、いろいろと不便があるだろうからね」
桜「···ありがとうございます、アサヒ様」
畏まる事はないと告げてから、ダイチにニロとスガを呼びに行かせる。
「それからオータ、連絡係にチカラを連れて行くといい。ニロと同じくらい···いや、それ以上に剣にも思案にも長けている。きっと役に立ってくれるだろう」
桜「しかしアサヒ様···本来俺達の生きる場所は、」
「このカラスノ、だろう?」
桜「いえ、俺達は、」
「カ・ラ・ス・ノ···だろう?」
オータは自分達の本来の姿は海賊だから、城に仕える者は連れて行けないと言いたいんだろう。
だが、あの日からオータ達は···このカラスノで生活をする街の民と同じだ。
そして、その日からも、今も···これからも。
大切な···友、だ。
黙って、オータとケイタを見続ける。
何も言わずにいるのは、そこに言葉なんていらないからだ。
桜「お心遣い、ありがとうございます···必ず、その者をお届けに上がります···陛下」
「良きに···と、言いたい所だがオータ。そろそろ堅苦しいのはやめにしないか?見てみろ、ケイタはさっきから欠伸を噛み殺している」
慧「あ、バレてた?」
桜「ケイタ!!」
いつもの調子のケイタと、慌て出すオータ。
それでいいと頷きながら一緒に笑っていると、眉を寄せたダイチがニロとスガを連れて戻って来た。
合わせてチカラも呼び寄せ、これからの事を入念に話し合った。
ニロとスガはアズサさんの体調を見ながら店を代行する。
ただし、いつ何が起こるかは分からないから、昼間の明るい時間だけの開店のみ。
それ以外はアズサさんもこの城での生活を共にしてもらう事になった。
「オータ、それからケイタ。ひとつ約束をしよう···必ず、全員でアズサさんを迎えに来ること」
「「 仰せの通りに··· 」」
誰一人欠けてはいけない。
そう念を押して、城から出て行く後ろ姿を小さくなるまで見送った。