第2章 風のざわめき
~ ケイタside ~
オータが振り返りもしないで船へと駆け出した。
おいおい···あの冷静沈着なオータが顔色変えて脇目も振らずにとか、今までないだろ。
あ、あったか?
まぁ、そういう時は大抵···ツムグやアズサの事だけどよ。
ツムグとタダシが危ない!とか言ってたな。
いくら何でも、タダシがついてんだ。
アイツは見た目こそほのぼのしてっけど、芯はしっかりしてるぜ?
なんせ、タダシに剣術教え込んだのは他でもねぇ、オレだからな。
そこまで心配しなくたって大丈夫じゃねぇのか?
桜「ケイタ···お前は念の為にここで待ってて欲しい」
「は?」
船へと架けられた橋の前でオータが立ち止まり、オレを振り返る。
桜「もし···中に侵入者が残ってたら、お前がここで捕まえてくれ」
「あぁ、分かったよ···なんて言うと思ったか、このバカアニキ。オレも行く」
桜「ケイタ!」
後ろに続くノヤとコガネにも、着いて来いと声を掛け前に出る。
「お前が何を読み違えたんだか知らねぇが、ひとりで抱え込むんじゃねーよ···そういうのは全員に分散しろ、バーカ」
オレ達は、良くも悪くも···双子だ。
痛みやくるしさは、離れていてもバレバレだっつうの。
そこんとこ忘れんじゃねぇよ。
「急ぐんだろ?早くしろ···船長さんよ?」
桜「···まったくケイタは」
「小言は後で存分に聞いてやる。行くぞ」
全員で頷き合い、音を立てないように乗り込む。
ひとつずつの扉を用心して開け、中を確認しながら次々と進む。
これまでは特に何も問題はなかった···ってコトは、だ。
残る扉は···あとひとつ。
厨房と隣接している、食堂代わりの部屋だけだ。
ひとつ息を吐いて、スルリと剣を翳しながら最後の扉を思いっきり開けてやる。
切り込み隊長なら、オレが一番慣れてる。
扉を開けた先に見えた人影に、つい勢いだけで剣を振り翳した。
「この船に何用だ!」
振り下ろした剣はかん高い音を響かせながら斜めに払われる。
···!!
出来るヤツか?!
「···って、タダシじゃねぇか!」
山「ケ···ケイタさん?!···驚かさないで下さいよ···」
そこには青ざめて立ち尽くす、タダシがひとりだけ···いた。