第2章 風のざわめき
目の前に座るのは、街中であった時と同じ人なんだろうかと疑ってしまうほど冷たく笑う人間だった。
本来、海賊船の船長って言うのはこういうものなんだろうとさえ思わせるような。
欲しいものは、どんな手段を使ってでも手に入れる。
例えそれが、神に背く事であっても。
だからといって、私がそれに負けてしまえばオータ兄様達を失ってしまうかも知れないなら、私は何をされても屈したりはしない。
及「ツキシマ、ちょっとお前に聞きたいことがある」
そう言ってオイカワと言う人は立ち上がり、ツキシマと呼ばれる人の前に立った。
及「お前、この腕はどうした」
月「別に···」
及「オレに隠し事なんて出来ると思ってんの?」
ガタンッと音を立てながら、オイカワと言う人はケガした腕を捻りあげテーブルへと突き伏せた。
月「···ッ!」
ツキシマと言う人は、痛みに耐えているのか眉を歪ませ唇を噛み締めている。
ケガをしているのを分かっていて、なんて酷い事を···
及「さぁ言え。この傷はどこで受けた!」
着替えたはずのシャツに、ジワリと赤いシミが広がって行く。
傷が!
『やめて!!その手を離して!!』
咄嗟に突き飛ばし、傷のある腕を庇う。
月「···余計な、事を」
『せっかく止血したって言うのに、酷すぎる···』
ポケットからハンカチを出し、袖の上からまた押さえる。
及「どうやらその傷にはキミも関係しているようだね」
冷たく笑いながら、一歩ずつ私に近寄る姿にゾクリと寒気が走る。
『来ないで!』
及「来るなと言われて引き下がるとでも?」
嘲笑うように距離を詰めてくる相手にどうしたいいかと案を巡らせる。
···そうだ、これなら!
視界の片隅にあるツキシマという人の腰から剣を引き抜き突き向ける。
及「おっと?それでオレを倒せるとでも思ってる?」
『それ以上こっちに来ないで···もし、そこから一歩でも進んだら···この場で死人が出ます』
ハッタリでもなんでもない。
及「へぇ~、見掛けに寄らず随分とお転婆さんなチビちゃんだ。それともオレがナメられてるのかな?」
スっと自身の剣を抜き出し、その切っ先を私に向けてくる。
『死ぬのはあなたじゃない。この場で命を粗末にするのは···この私!』
瞬きもせずにジッと見据え、突き向けた剣を私の首に当てた。