第2章 風のざわめき
~ オータside ~
慧「チッ···逃げ足の早いやつだ」
西「ケイタさん、スンマセン···」
黄「あと少しだったんスけど」
コガネの言う通り、あと少しで···というところで取り逃してしまった。
俺とした事が、詰めが甘かったか?
だけど、タダシ~緊急事態の連絡を受けて船まで行って···まさかツムグがいるとは思わなかったから。
タダシからの連絡が、ツムグの事だったのか?と一瞬読み間違えそうになった。
けど、ツムグの事だとしても。
タダシならツムグをやんわりと船から遠ざけるだろうに。
それが出来なかったのは、きっとツムグに丸め込まれたと言うのが一番近いだろう。
それに、確かに船には侵入者がいた。
だから威嚇を含めて···だった。
軽く手応えはあった···いや、待て。
血痕はどうだった?
部屋から出てすぐに確認した時、血痕はあった。
それに船から走り去る人影さえ。
だけど、負傷した人間があんなにも早く走り去るだろうか。
侵入者は本当に一人だけだったか?
···嫌な予感が、する。
「ケイタ、船に戻ろう!」
慧「逃げたヤツはどうするんだ?」
「今はいい。とにかく戻るぞ!タダシとツムグが危ない!」
西「オータさん?!」
タダシだって普段はキッチンにいる事が多いが、ちゃんと戦える。
でも、それは庇うものがない時だ。
もしも侵略者が他にもいたならば、ツムグを抱えたタダシは守りに徹するだろう。
そして何より気掛かりなのは。
そんな事態になった時、ツムグは絶対ムチャをする。
···二人共、何もなければいいけど。
冷やりと流れる汗を背中に感じながら、後からついてくる三人を振り返ることもなく船まで走り続けた。