第2章 風のざわめき
『それなら、ちょっとくらい痛くても平気だよね?じゃ、遠慮なく』
月「···クッ···!」
真っ赤に染まったシャツの袖口を捲り、傷口を見る。
これは確実にさっきの···
幸い、弾が残ってるとかいうケガではなく掠った程度の傷ではあるけど。
それでも少し抉れて傷の長さもちょっとだけ···という範囲ではない。
出血が多いのは、このせいだ。
『タダシ君、迷惑ついでに手伝って貰える?』
山「わ、分かった···オレは何をすればいい?」
『この人のシャツ、全部脱がせて。それから代わりのシャツを』
月「男に脱がされるとか、有り得ないんだけど」
山「オ、オレだって脱がせた事とかないし!」
『じゃあ、お互い初めての体験という事で···早く!』
オータ兄様みたいに縫合とかは出来ないから、まずは傷口を圧迫して出血を止める。
月「ちょっと、もっと優しく出来ないの?女デショ?」
『痛いのは生きてる証拠。良かったね、痛いって感覚がまだあって』
圧迫した痛みに眉を寄せながらも、憎まれ口を開く相手に私は逆に眉ひとつ動かさずに答える。
山「ツムグさん、着替えのシャツ持って来ました。オレのだけど、これでよかったら」
『ありがとう。止血は上手くいったみたいだから、あとは包帯巻くの手伝って?』
ガーゼにオータ兄様が調合した傷薬をたっぷり乗せて傷口に当て、その上からタダシ君が何枚も重ねたガーゼを押し当てる。
押さえてもらっている間に、私は包帯を巻きつけていく。
さっきまでケガの事しか頭になかったけど、いざ冷静になると···目の前に迫る均整のとれた体に目のやり場を探す。
月「なに?今さら僕の体に見とれちゃってるの?」
『ち、違っ』
月「照れなくてもいいし···ちゃんと後で、啼かせてあげるから···手当ての礼に、ね」
『なんで私が泣かされるのよ···意味分かんないし』
月「まさか···鈍感?」
何となくちょっと小馬鹿にされたのを感じ、ムッとする。
『鈍感って、失礼ね···はい、応急処置終わり!』
月「痛···」
小さなお返しに包帯の巻き終わりをペシンと叩き、幾つかの薬をポケットに入れて立ち上がる。
『さ、今度はそっちの番···行きましょう』
山「ツムグさんっ?!」
『約束、したから。行ってくるね、タダシ君···』