第2章 風のざわめき
『いい匂いがするから』
山「へっ?!いい匂い?!」
『なんかお腹が空きそうな、美味しそうな感じの』
山「おっ、美味しそう···?」
私がそう伝えると、タダシ君は一瞬の間を開けて苦笑を見せた。
山「イキナリ美味しそうだとかビックリしたけど。そのいい匂いって多分、夕飯の仕込みしてたから匂いが移ってるのかも」
タダシ君は元々が料理人見習いだったから、オータ兄様達がいない時は船のキッチンで一日を過ごす。
もちろん、なにか不測の事態が起きた時にはそこから出て戦闘にも加わるけど。
でもタダシ君は素直で優し過ぎるから、戦闘には向いてないかもな?って、ケイタ兄様が言ってたんだよね。
『匂いが移ってしまうくらい、一生懸命にご飯作ってたんだね!···いいなぁ、私もそれくらい頑張れば上達するんだろうけど』
一番身近にいるのが、兄様達とアズサちゃんだからなぁ。
私なんて足元のつま先にも及ばないっていうか。
私が頑張るよりも先に、あっという間に食事の用意が出来ちゃうというか。
···女の子として私、大丈夫なんだろうか。
山「もし良かったら、今度さ、」
タダシ君が何かを言いかけた時、バタバタと足音が近付いて来て···
勢いよく扉が開けられた。
西「いたぞ!!見つけ···」
黄「あ"ーーー!!タダシ!なにツムグさんと抱き合ってんだ!!」
山「こ、これには深いワケが!」
「「 ふ、深い仲だとっ?! 」」
西「二人とも···」
黄「既にそういう仲とか···」
怒ったり落ち込んだりと忙しく感情を露わにする二人に呆れながら、私はタダシ君から離れた。
『違います!深いワケ!!っていうか、コガネとノヤっさんがあんな風に追いかけるからでしょ!!』
「「 ···すんません、つい出来心で 」」
まぁ、気持ちは分かるからいいんだけどね。
西「それよりオータさんかケイタさんの使いですか?ここはあまり立ち寄ったらいけない所じゃないんスか?」
黄「そうッスよ!危ねぇッス!」
『いやまぁ、そうだけど···』
助けを求めるようにチラリとタダシ君を見る。
山「ツムグさんは···その。そう!ご、ご飯!ご飯を一緒に食べようかと来てくれたんだよ!」
『そ、そうなの!たまにはみんなと食べたいなぁ!とか!』
黄「そうなんスか?!それは嬉しいッスよ!!」