第2章 風のざわめき
山「さ、今のうちに···」
周りを何度も確認して、タダシ君が私に手招きをする。
言われるがままにサッと身を翻し、隠し扉の中へと入る。
ここまで来れば、あとは普通に並んで歩いても大丈夫だよね?
だってもうすぐ船場に着くんだし。
山「あのさ、ちょっとだけ先に言っておきたい事があるんだけど」
『なに?』
山「ノヤっさんとコガネが、随分前からツムグさんに会いたがってたから···多分だけど、半端ない歓迎を受ける···と思う」
それを聞いて、あの二人の熱烈歓迎を想像して身震いする。
悪気があるわけじゃないし、仲間に親しまれるのはいい事なんだけど···
愛情表現が強烈というか、加減を知らないと言うか。
とにかく、猛烈な突進というか。
普段は兄様達から船場へは行ってはいけないと言われていて、実際ここに来たのは数ヶ月ぶり。
···と、言うことは?
黄「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っっっ!!ツムグさんっ?!ノヤっさん!タダシと一緒にツムグさんがいるッス!!」
西「なにぃぃぃぃっ?!ツムグさんがいるだとぅ?!おいコガネ!!どこだ!どこにいるんだ?!···いたぞ!!ツムグさぁぁぁん!!!」
···当然、こうなるわけで。
『嗅覚凄すぎだね、あの二人は。もう見つかっちゃった』
山「あはは···頼りないかもだけど、出来るだけオレが守るから離れないでね···来た!ツムグさん走って!」
言い終わる前にタダシ君が私の手を引いて走り出し、私も何とかそれに合わせて走る。
二人とは別の入口から船に駆け込んで···
山「ツムグさん!こっち!」
そう言ってひとつの扉を開けて引き込まれた。
黄「ツムグさぁぁぁん!!」
西「どこだぁぁぁ!!」
バタバタと扉の前を走り抜ける二人の足音が聞こえてきて、思わず息を止めるような時間を過ごす。
通り過ぎたと思えば、また戻って来たりして、その度に私を抱え込むタダシ君の腕に力が入り体が密着する。
スンッと鼻を擽る香りがタダシ君から流れてきて、その香りに思わず顔を寄せてしまう。
山「あ、あのっ?!ツムグさんっ?!」
『あのねタダシ君···もっと、くっついてもいい?』
だってタダシ君は···
山「は、はいっ!えぇっ?!?!」