第2章 風のざわめき
~ タダシside ~
いつものように変装をして買い出しに出た帰りに、見慣れた小さな後ろ姿をみつけた。
あれは···ツムグさんじゃないか?
普段なら船場の近くでは見る事がない姿に、どうしてここに?と疑問が沸き起こる。
···もしかしてオータさんのおつかい、とか?
いや、でも。
オータさんはどんな時でも、ツムグさんやアズサさんを船場に近付けるような事はしない。
大概の用事は、オータさんかケイタさんが直接やって来る。
この間だってそうだ。
じゃあ、たまたま?
だけど、そんなたまたま通りかかるような場所に船場はない。
だってここは、陛下から直々に使用を許可された秘密の場所だから。
急用でも出来たんだろうか?
とにかく、ツムグさんがここにいるのは良くないから、とりあえず声をかけてみよう。
そう思って早足で後ろ姿に追い付き、声をかけた。
「ツムグさん?」
『はい···って、タダシ君?!びっくりした···』
名前を呼びかければ、まるで悪い事を見つかったかのように肩をはね上げ振り返る。
「びっくりしたのはオレの方だよ。どうしてここへ?」
『あ~···まぁ、ちょっと野暮用、かな』
野暮用?
荷物を見れば野暮用とは程遠く、今まさに船場へ行くのでは?と思わせるような品々が顔を出している。
「この辺はいろいろと危ないから、その野暮用とやらの場所まで送って行くよ。はい、その荷物もオレが持つから貸して?それから行き先は?」
『あ···えっ···と···船』
「言うと思ったけど、それはダメだよ···」
オータさん達から、船の隠し場所は絶対に知られてはいけないって念を押されてるから。
「お店までオレが送るから、コガネやノヤっさん達に見つかる前に···行こう」
あの二人にツムグさんがここにいる事がバレたら大騒ぎになる。
『ち、違うの!あのね私、タダシ君と···その、お、お話したいなぁ···なんて。ねぇ、それでもダメ?』
「お、オレと?!」
上目遣いで見つめてくるとか!
反則だよっ!!
『ね···タダシ君、ダメ?』
クッ···こ、このオネダリには···勝てない···
「少し、だけなら···」
『ありがとう!』
オータさんごめんなさい。
お叱りは後でたくさん受けますから···