第2章 風のざわめき
この間のお客さん達、あれから全然来なくなったけど···どうしてだろう。
冷やかしで来た訳じゃなくて、ちゃんとご飯をたくさん注文してくれたから、そこはいいんだけど。
でも料理を運ぶ度に、何か変な感じしたんだよね。
あのオイカワさんって人やイワイズミさんって人が、何だか私を上から下まで観察してるっていうか。
更に言えば、私が1人になると声を掛けてきて、何だか言いたそうにはしてるんだけど結局お水くれとかそんな事で。
ほかの大人しそうな二人は、黙々と静かに食べてたけど。
片方は妙に不機嫌な顔して食べてたのは、好きな味じゃなかったのかな?とか。
それが何となく気になったから、お店閉めてから私やアズサちゃんが奥に下がっている間、どんな感じの話をしたのかは簡単にしか教えて貰えなかった。
オータ兄様は私もアズサちゃんも、ずっとここで暮らしていけるから心配はいらないって言ってた事が、何だかずっと···胸の奥でチクチクとする。
どうして兄様達は、みんなで一緒にって言わなかったんだろう。
何だか私の知らないところで、何かが起きてるような気がして落ち着かない。
泣く子も黙る海賊···って、言ってたよね。
船番してるみんなだったら、何か知ってるかも?
ちょうど忙しい時間が終わって、私達は休憩の時間になるし。
夕方にまたお店開けるまでに戻ってくれば大丈夫だよね?
ちょっとだけ···なら、みんなの船の隠し場所に行っても···いい、よね?
普段は絶対に近付いたらいけないって言われてるけど、ちょっとだけだったら万が一オータ兄様やケイタ兄様に見つかっても、通りすがりのだって言えば···何とかなるんじゃないかな。
よし。
そうと決まれば、動くのは早い方がいいよね!
モタモタしていて、お店出る前にバレちゃったら大目玉だから。
エプロンを外してフックにかけながら、出掛ける事をオータ兄様に告げて私は店を出た。
港市場を歩きながら、ふと気付く。
いつもならこの辺でスガさんに声をかけられるんだけど、今日はいないのかな?
珍しい日もあるなと特に深くは考えず、また歩き出す。
向かいながらいくつかの果物や水を買い、また歩く。
船で生活していると、水は貴重だから。
陸にいても、海にいても、いざとなったら水はいろんな事に使えるし。
そう考えながら先を急いだ。