第2章 風のざわめき
~ アサヒside ~
穏やかな日々、と言うのは。
なぜこうも簡単に終わりを告げようとするのだろうか。
夜空に瞬く星々を見上げながら、昼間の出来事を思い返していた。
しばらくの間、暗く湿った所に囚われていた自分を陽の光の下へ救い出してくれた···友人。
桜 ー 守るべきものが出来たら、アサヒさんもきっと今より強くなれます ー
前に店に訪れた際に笑いながらオータが言った言葉を何度も繰り返しながら、ひとつ息を吐く。
オータ。
交わした約束は、いかなる事が起きようとも果たす事を誓おう。
だが、その前に。
お前のその言葉は、生きていてこそ···光を放つという事を忘れてはいけない。
何も言わず傍らに立つダイチを振り返り、ゆっくりと目を閉じ、またひとつ息を吐いた。
「ダイチ。ニロと、それからスガをここに」
澤「ニロとスガ、ですか?」
「その二人に、任を命じようと思う」
澤「しかしニロは陛下の···」
「大丈夫だよ、ダイチがいてくれるんだろう?」
そう付け加えると、ダイチは静々と頭を下げて二人を呼びに行った。
ニロは自分の側でいろいろと仕事を働いてくれていたから、そこに関しては信用している。
それにスガも。
スガには港町で民に混ざって生活をしながら、街での事を見守る役目を与えていた。
···少々、ツムグには執心が過ぎるのは困ったところだが。
それでも、誰にバレることもなく今日まで任を果たしてくれていたのだから、良しとしよう。
あの二人なら、きっとオータ達の役に立つだろう。
必ず生きて帰らせたい。
あの時のオータの目は、自分の死をも覚悟した目だった。
産まれてくる子供の為にも、生きて帰らせなければならない。
友よ···
勝手なわがままを怒るか?
それでもいい。
説教なら、全てが終わってから···いくらでも受けようではないか。
どうか、彼らに加護を。
瞬く星々に願いを込めて、そっと瞼を閉じた。