第2章 風のざわめき
~ ダイチside ~
「陛下、昼間のお話は···正気でございますか?」
旭「あぁ、本当だ」
誰もいないバルコニーで、夜風に当たる陛下の背中に問う。
旭「初めて出来た、大事な友との約束だからね」
「しかし!」
昼間、いつにも増して真剣な顔をしたオータが訪ねて来た。
人払いをしてまでの大事な要件がある。
そう告げられ、ニロと自分以外を下げ聞いた話は···それまで穏やかに過ごしていたであろう彼らの日常を覆す内容であった。
桜「陛下に、お願いがあってここへ参りました」
旭「そんなに畏まらなくてもいい。普段のオータで話をしよう」
桜「いえ、是非ともこのままで」
いつもならば多少ゴリ押しすれば、食事処の店主と客という友達で話をするのに、あの時のオータは頑なに態度を変えず、床に跪き頭を下げたままだった。
旭「どうしても、というなら仕方ない。それで、お願いというのは?」
桜「はい。恐れながら陛下は、私との約束で···大事があった時にひとつ救いをもたらして頂けると、お言葉を」
旭「友の願いであれば、大事でなくとも力を貸すが?···話してみなさい」
そこで聞いた話は、様々な覚悟を決めた目をした···ひとりの男の腹を据えた決意。
もしかしたら、それが最後に会うオータの姿なのかも知れないとさえ思うような、決断であった。
旭「オータ。お前さえ良ければ、全員ここで···」
そう切り出しても、オータは首を縦に振る事はなかった。
桜「妻と···妹を、宜しくお願い致します」
旭「それが、オータの願いか?」
桜「···はい」
真っ直ぐな目をした、唯一の友の願い。
陛下がそれを断る理由なんてないと言う事は百も承知している。
旭「分かった、引き受けよう。だが、ひとつ約束をさせてくれ···必ず、迎えに来なさい」
その言葉に、オータの瞳が揺れた。
桜「もし···果たせぬ事がありましたら?」
旭「その時は、私は生涯···それを許す事はない」
桜「承知」
これまで陛下は、幼き頃より王家という鎖で繋がれた日々を、ふと立ち寄ったあの兄弟に解かれ友と呼べる宝を手に入れた。
楽しそうにしている陛下を見て、それも悪くはないと思ってはいたが。
海賊同士の···ともなれば話は別だ。
旭「ダイチ。ニロと、それからスガをここに」