第2章 風のざわめき
~ ケイタside ~
「お前、それマジで言ってんのか?!」
桜「シッ!ケイタ、声が大きい。ツムグが起きたら困るだろ」
「悪ぃ···だけど、それはアイツもアズサも納得するのか?」
桜「それは、分からないよ。でも、セイジョーの船員がここに来た時点で、既に街の人達にも迷惑がかかってしまう事は決定だろ?それにアズサとツムグには、危険な事はさせられないからね」
そうだけどよ···
だけど、オータが持ちかけてきた案は···必ずしもアズサとツムグを守る事が出来るとは確約されてねぇだろうが。
桜「船には俺と、それからケイタの二人で乗ろう。だから、船番をしてくれているコガネやタダシ、それからノヤは任を解いて自由にさせてあげようと思ってる」
「事実上の、ブラックツインズ解散···ってやつか」
桜「あぁ。あの三人はこれまでよく船を守ってくれてたから、それなりの報酬は払うつもりでいる。質素な暮らしを続けているけど、貯えがないわけじゃないしね」
「で、アズサ達はどこに行かせるんだ?」
オレ達がここを離れたとしても、アイツらをこの店に置いとくわけにゃ行かねぇだろ?
そう問えば、オータは既に策があるから心配するなと笑った。
「産まれてくる子供の顔、見れなくなってもいいのか?」
桜「本心では嫌だけど、でも、巻き込むわけには行かないからね。それに俺は、海に散るつもりは更々ないんだけど?」
「あくまでも散ったフリ、だろ。分かってるっての」
オレ達は二人で船を出し、この街から離れたところで適当に海賊船を見つけて喧嘩を売り···長く親しんだオレ達の船を沈める。
運良く生き残れたら、いつか必ず···また家族で。
そう切り出したオータの目はいつになく真剣に光を帯びていて、それが本気なんだとオレを納得させた。
桜「ケイタ。お前を巻き込んでしまって悪いと思ってるよ」
「巻き込まれたとは思ってねぇよ。オレ達はこの世に出る前から、いつだって一緒だったじゃねぇか。どこまでもお供するっての、ア・ニ・キ?」
これは、オータを安心させる為の···嘘だ。
何が起きても、お前だけは家族の元に走らせてやるから。
捨て駒は、オレだけで充分だろ。
なぁ、そうだろ?
心で呟き、酒の入ったグラスを静かに微笑む月に···掲げた。