第1章 水鏡の揺らぎ
思わず飛び出した言葉がマスターとか、それはそれで恥ずかしいけど!
でもここでオータ兄様の名前を呼んだらイケナイ気がするから!
及「そっくりな顔?」
月「オイカワさん、それを世間では双子···つまり、この店の名前と同じ···」
国「···ツインズ」
ポツリと放たれた言葉に、その場が一瞬静かになる。
岩「そういや···ブラックツインズと呼ばれていたヤツらがいたな」
息が、止まる。
ブラックツインズ···それは、私達がまだ船で生活をしていた時の···通り名でもあって。
決して、神様に誓って街の人々から金品を奪い取るとかはしていない。
だけど、悪い事をしてそれを手に入れた人から奪い返してた私達は、そう呼ばれていた。
不安を隠せないまま、オータ兄様を見る。
桜「その名前なら、俺も知ってますよ。何でも、少し前まではよく聞いてましたが、最近はあまり聞かない名前ですよね?」
私とは正反対に、冷静に顔色ひとつ変えずに言うオータ兄様は、手に持っていたシャツをアズサちゃんに渡した。
桜「後は俺達だけで大丈夫だから、少し休んでて?あ、それからツムグは今朝の洗濯物取り入れといてくれる?」
『洗濯物、乾いてるかな』
桜「今日は天気がいいから、乾いてると思うよ。ちゃんと教えた通りに、キチンと畳むんだよ?」
『わ、分かってる!』
これはきっと、オータ兄様の人払い。
相手がどんな行動に出るか分からない時は、さり気なく日常の生活のひとコマを会話に混ぜて、私やアズサちゃんを遠ざける。
···女である私達に、危害が及ばないように。
特にアズサちゃんはいま、とても大事な体だから。
梓「行こっか、たまにはのんびり家事やろう?」
言葉をくれるアズサちゃんに頷き、奥へと下がる。
パッと洗濯物を入れて、ふたりでのんびり片付ける。
その間も、お店が気になってソワソワして。
つい、手が止まってしまう。
梓「追い払われた」
『え···』
梓「とか、思ってる?でも大丈夫。オータなりに、上手くかわしてくれるから。これがケイタだったら、危ないけどね?」
『アズサちゃん···もしも、だけど』
そこまで言いかけて、穏やかに微笑むアズサちゃんの顔を見て···やめる。
だってアズサちゃんの微笑みは、お母さんのそれと···同じだったから。