第1章 水鏡の揺らぎ
忙しかった時間も最後のお客さんが帰ることで終わりを告げる。
今日も忙しかったなぁ。
そんな事を考えながらテーブルを片付けていると、いまお客さんが出ていったばかりのドアが開く。
梓「いらっしゃいませ!···四名様ですね?お好きなテーブルへどうぞ」
やっとひと息つけると思ったのに···とか考えてたらダメなんだよね?
笑顔でお出迎えしなきゃ!
『いらっしゃいま···あっ!この前の!』
岩「なんだ、ここで働いてたのか?」
及「あれ?じゃあ街の人から聞いた可愛い女の子ってキミのこと?」
いや、それは知らないけど。
『この前はありがとうございました。ご注文がお決まりになりましたら、どうぞお声かけを』
岩「あぁ。いや待て。これだけ街のヤツらが勧めてくる店だから、いろんなヤツが出入りするだろう?」
及「あ、そうか!そうだね···あのさ、オレ達ちょっと人を探してるんだけどさ···って!イワちゃん!いた!」
話の途中で急に立ち上がり、指をさす方向に顔を向ければ、倉庫を整理していたケイタ兄様がホールに出て来ていた。
慧「あ?騒がしいと思ったら客か?···アンタら、こないだの」
岩「ちょうどいい。アンタに聞きたい事があったんだ」
慧「オレに?」
岩「この店で働いてるなら、いろんな情報を知ってるだろうと思ってな。で、さっそく聞くが」
人探しをしていたのは、この人達だったんだ···
岩「アンタ、船に乗ってた事はあるか?」
って、え?!
いきなり船とか?!
慧「船?そりゃまたおかしな事を聞くんだな。船くらいなら大概のヤツならあるだろ?」
のらりくらりと交わすケイタ兄様を見ながら、私の胸は早鐘を打っていた。
もし今、オータ兄様がお店に出て来ちゃったら。
双子の海賊···って言う過去の経歴がバレてしまうかも知れない。
オータ兄様は今、調理中にシャツを汚してしまって部屋に着替えに行ってる。
だったら···私が今からオータ兄様の所に行って、お店に顔出しちゃダメ!って伝えないと!
不自然にならないようにその場を離れようとテーブルを拭いた布巾を持って歩き出す。
早く、伝えないと!
桜「あれ?お客さん入ったのか」
あーーーーーーーーーっ!!
『マ、ママママママ、マスター!!お客様ご来店です!』
桜「え?マスター?」