第1章 水鏡の揺らぎ
桜「俺はまだ何も言ってないのに謝るとか、さてはツムグ、また何かやらかしたのかな?」
『···えっ?!いえっ、まだなにも!』
私の慌てぶりにクスクスと笑いながら、オータ兄様が側においでとカウンターの扉を開く。
桜「ケイタの事だけど、あのままにしといていいから」
「でも仕事が···お客さん、それなりに入ってるのに」
桜「いいよ、忙しくなったらアズサにここを頼んで俺もホールに出るから。それに俺も昼間外を歩いてたら、あのお客さんと同じ事を話してる他のお客さんにあったからね」
そんなにいろんな人が人探しをしてるとかいう人に声をかけられてたんだ?
桜「どんな目的で人探しをしているのかまでは分からないけど、情報収集は必要だからね。それに、もし探されているのが心当たりある人物だとしたら···」
オータ兄様は最後の方は言葉を濁し、ね?とだけ私に微笑む。
もし、探されているのがオータ兄様達だとしたら。
それはそれで、この街に居続ける事が出来なくなってしまうかも知れない。
それは、あの優しいアサヒ様達や、店を営んでいる街の人達とのお別れも意味するかも知れない。
でも、そうなってしまったら···これから赤ちゃんが産まれるアズサちゃんはどうなってしまうの?
あんな体で次の居住地を探し歩く旅をするなんて、出来ないよ···
桜「心配しなくて大丈夫だよ、ツムグ。ほら、笑顔出して?今は営業中なんだから」
『でもオータ兄様···』
桜「はい、仕上がった。ツムグ、お客さんの所に運んでくれるかな?」
出来上がった料理をトレーに乗せられ、私はそれを渡される。
『···行ってきます』
桜「ツムグ、どんな時でもお客さんには笑顔でね?」
分かってるよ、と残して料理を運ぶ。
それにしても、人探しをしているっていうのはどんな人なんだろう。
これだけの人が聞かれているんだし、そのうち私も声を掛けられる事があるのかも知れない。
その時は、上手く話す事が出来るのだろうか。
···私、すぐ顔に出ちゃうらしいから。
ケイタ兄様にいっつもそれを言われてからかわれるし。
何となくケイタ兄様を見れば、さっきのお客さんとゲラゲラ笑いながら女の人の胸がどうの、とか話してる。
本当にあれは、オータ兄様が言うように情報収集になってるの?