第1章 水鏡の揺らぎ
アズサちゃんが回復して、久し振りに4人揃っての営業をしていると、お客さんから聞こえて来る話題が耳に入って来た。
ー でよ、何でもソイツが言うにはよ?昔おたずね者だった男か、海賊だか山賊だかをしてた男を知らないか?だってよ ー
ー あ、それオレも聞かれた!でもよぅ、おたずね者だとか、海賊だとかなら、とっくに捕まってるか未だどこかでナリを潜めてるんじゃねぇのか?って言ってやったさ ー
ー アハハッ!違ぇねぇ! ー
昔、海賊だった···男。
心当たりがない訳じゃない。
けど、もしかして探してる相手っていうのは兄様達の事なんじゃないかと不安になる。
別に私達は悪い事をして逃げていた訳じゃない。
でも、やっぱり海賊···とかで括られてしまったら、街の人達からしたら、イコール、悪い奴らってなってしまうんだろうか。
慧「お客さ~ん!何だか面白そうな話じゃねぇの?オレも詳しく聞かしてくれよ?」
ケイタ兄様?
ー なんだぁケイタ?お前も人探しに興味があんのか? ー
慧「今日は大して忙しくねぇから退屈だからな。たまにゃお喋りに仲間入りさせてくれよ?な?一杯サービスすっからよ?」
ー そりゃいいや!ほらケイタ、座れ座れ! ー
大して忙しくない、ですと?!
パッと見渡せば、テーブルは8割位は埋まってるのに?!
そうやってサボるとオータ兄様に後で怒られるんだからね?
チラッとキッチンにいるオータ兄様を見れば、オータ兄様はニコニコとしながらこっちの様子を眺めていた。
ほらケイタ兄様!オータ兄様がこっち見てるってば!
普段物凄く優しいオータ兄様が怒ると怖いんだからね!!
前にオータ兄様から懇々とお説教をされた事を思い出しながら振り返れば、オータ兄様が私に手招きをする。
も、もしかして私もサボってると思われてる?!
それとも私、オーダーミスでもしたかな?!
ありとあらゆる怒られ要素を思い浮かべて、ビクビクしながらオータ兄様の所へ急ぐ。
『オータ兄様、ごめんなさい!』
呼ばれた理由はまだ不明だけど、とにかく先に謝ってみよう。
そう決めて、私はオータ兄様にごめんなさいと謝ると不思議そうな顔を見せられた。